第59話 かすかな不安
「いやー。聞いたことないな。くろきくろ……真っ黒な何かって感じなの?」
「詳細も、出どころも、実はよくわからないんだよね。ダンジョンに関係はあるみたいなんだけど。ただ、私のよく見てるダンジョン配信者の人でも何人も、チラッとそのワードを匂わせたりする人とかもいてさ」
声を潜めて、いかにもな感じでささやく早川。少し耳元がくすぐったい。
「ほー」
「そのワード自体が何の事なんだろって、界隈だと今、秘かに話題なんだ」
「秘かに話題って、そんなことあるのか……というかネットで出てこないのにその界隈の人たちが何か知ってそうってのも、だいぶ不思議じゃないか」
俺はいったいどんな状況なんだと首を傾げる。
「そうなんだよね。たぶん、皆、断片的にしか知らないとかじゃないかな。でさ、私もやっぱりバズるネタがほしいの」
「ふ、ふーん」
「皆が興味津々の『黒き黒』、何か新情報を配信できたら、絶対バズりそうじゃない?」
目をキラキラさせてずいっと身を乗り出してくる早川。
近い。
「そ、そうかも?」
「でね、その配信者のうちの一人、ジョゼ三世さんって言う女性ライバーなんだけど、今度の休みにオフ会をするんだって」
「……早川、行くつもり? そういうのって、危なくないのか」
「じゃあさ、一緒に行ってくれる? ユウト」
「はぁ。仕方ないな。いいぜ。というか、このお弁当って、そもそもそれを頼みたくて作ってきたんだろ」
「あ、ばれた?」
にひひと笑いながら立ち上がる早川。
「ありがとね」
「……ああ。何、大したことないさ」
俺は言いかけた言葉を飲み込む。
なんとなく、誰か大人もいた方がいいんじゃないか、とふと思ったのだ。俺にしては珍しく少しだけいやな予感がしていた。
◆◇
「クロ」
「何ですか、ユウト」
「実は今日学校でさ──」
俺は早川と話した内容と、オフ会に一緒にいくことになったと伝える。胸のつかえを吐き出すように。
「でさ、誰か大人に相談しといた方が良いかなって」
「不要かと思いますが」
「え、そう?」
「今調べましたが、オフ会の会場となる場所も治安は比較的良好のようです」
「あ、そうなんだ。じゃあそのまま行ってくるか」
「ユウト」
「うん?」
「服装はどうされるのですか?」
「いや、いつもの感じで……いこうかと」
「……わかりました。私の方で注文しておきます」
「え、でも……」
「私の方で、注文、しておきます」
「はい」
なぜか、俺はクロに怒られてしまった。
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