第47話 新たなる強敵
早川と駅前で別れた俺は、ようやく家に辿り着く。辺りは薄暗くなり始めていた。
──よかった。パフェを食べたあとは、いつもの早川だった。やっぱり約束を守るのは、大事だよな。
自転車を停めて、自宅に入ろうとしたところで、俺はピタリと動きを止める。
辺りは薄暗くてハッキリとは見えない。
──ああ。やめてくれ。それだけはダメだ……
背筋を、震えがはしる。
ギシギシと首がなるような幻想に襲われながら、ぎゅっと目をつむり、俺はゆっくりと横を向く。
──みたくない。本当に見たくない。でも、もし見間違いならそう、確定させておりたい。
嫌だ嫌だと内心大声で叫びながら、うっすらと目を開ける。
少しでも見ないですむように。
「おかえりなさい、ユウト」
「っつ!」
突然のことに、思わずビクッとしてしまう。クロが家から出てきて挨拶してくれたのだ。
その衝撃で、思わず目を、開いてしまう。
飛び込んでくる家の壁の光景。
そこにはびっしりと、ヌメヌメとした軟体動物がいく匹もいく匹も張り付いていた。
「ぎゃぁぁぁー」
思わず叫びながら、手頃な物に抱きついてしまう。
クロのホログラムを俺の腕が突き抜け、その本体のドローンをかき抱くようにして抱き締める。
「ナメクジが、苦手なんですか。ユウトは」
「く、クロ! そのワードは、禁句だから!」
「はあ。了解しました。とりあえず家に入られては」
「お、おう」
俺は壁の方を見ないようにして一気に駆け抜ける。
「はぁ。はぁ。もう嫌だ。そ、そうだ! く、駆除業者を!」
「ナメクジくらいなら、いつもみたいに簡単にご自身で駆除できるのでは?」
「クロ! だからそれは禁句だから!」
「はい」
「──置くタイプの殺虫剤すら触りたくない! だいたい絵が書いてあるし。何よりあいつらが、これから食べるものに触れるとか、絶対無理だから!」
「はぁ。そこまでですか……」
「ああああ」
俺は思わず耳を押さえて意味不明の言葉を発してしまう。
「なら、緑川さんたちにお願いしてみるのは?
普通の人はナメ──」
「クロッ!」
「はい。普通の人はあれらをそこまで恐れないので。殺虫剤なりなんなりで倒してくれるかもしれませんよ」
「うぅ。頼んでみてもいいの、かな?」
「ダメ元でも聞いてみる価値はあるのでは? それでユウト」
「うん?」
「そろそろ離してくれませんか」
俺に抱き締められた状態のクロ。
俺はクロの言い分はあえて無視して、くつを履きなおすと、目を閉じてドアを開ける。
そしてそのまま緑川さんたちの家に向かって猛然とダッシュした。
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