第46話 お弁当

「ユウト、一緒にお昼食べない?」

「うん? 珍しいな。いいよ」


 昼休み。俺が弁当を取り出したところで早川が声をかけてくる。


 ──あ、これはもしやあれか。この前の、す巻きのお詫びの催促か!


 俺は何気ない風を装いつつも、背中に冷や汗がたれる。蜂の駆除にかまけて、そちらは何の準備もしていなかった。というか、今まで忘れていた。


「ユウトはお弁当だよね。天気もいいし中庭でどう?」


 そういって、早川も手にした包みを見せる。薄ピンクの可愛らしい布に包まれたのは、早川のお弁当箱だろう。


「ああ。行こうか」


 俺たちは連れだって、無言で廊下を歩く。


 ──うっ。沈黙が重たい。そういえば赤8ダンジョンから出てから、早川と二人っきりて、なかったかも。早川、自分の女子グループのメンバーとずっと居たみたいだし。


 中庭が見えてくる。

 点々と置かれたベンチのひとつに並んで座る。


 ──いつもより距離が近い、か? いや、こんなもんだったか。


 そのまま二人とも無言でお弁当箱を広げて食べ始める。


「ふふ。ユウトの、相変わらず凄い量だ」

「そうか。これぐらい、普通だろ?」

「ユウトは自分で作ってるんだっけ」

「そうだけど?」

「交換しよ。一個頂戴──これ、焦げてない?」


 人のお弁当箱に箸を突っ込んで卵焼きを奪っていく早川。たまたま、特に焦げているやつを選んだようだ。


「ちょっとな。進路の件でぼーっとしてたら焦がした」

「もう……。はい、一個。いいよ」


 そういってかわいいお弁当箱ごと差し出して来る早川。俺は一瞬ためらうが、結局箸を伸ばす。

 そっと、箸の扱いに気をつけながら、俺は早川のお弁当箱のなかの肉団子をとると、口の中へ。


「美味しいな。蓮根か?」

「そう。刻んで入れたの。食感がいいでしょ。そういえば進路調査の締め切り、そろそろだもんね。ユウトはどうするの? 進学?」

「一応な。ただ、近くに大学がないから、家をどうするかが悩みなんだよな。早川は?」

「私も進学のつもり。あっ、赤8ダンジョンの跡地に大学を誘致するとかって噂があるらしいよ」


 ──うぐっ


「へ、へぇ。急にそんな話が持ち上がるもんなんだ」

「もし本当だったら一緒に受験してみない? そこ」

「ああ。いいぞ」

「よかった。それでさ、ユウト──」


 ──あ、まずい。こういうお詫びの話しは自分から言い出さないと!


「あのさ、早川! この前のお詫びなんだが!」


 思わず早川の話を遮るように切り出してしまう。

 一瞬、ポカンとした表情をする早川。

 俺は必死に頭を働かせる。早川の好きなもの。早川の好物──。


「放課後、駅前のとこのカフェで、パフェなんてどう?」

「──うん。いいよ。いこ」


 なぜか意味ありげな笑みを浮かべて、それでも同意してくれる早川。

 俺はほっとして空を仰ぐように上を向く。

 ふと、上空から視線を感じたような気がした。

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