第43話 寝れない夜
「緑川先輩! 緊急連絡。コードブラックですっ」
それは怒濤の1日を終えたつもりで、倒れ込むようにベッドに身を沈めた瞬間だった。
目黒がドアを開けて叫ぶ。
バタバタと地下へと走る目黒のあとを追うように、緑川も飛び起きると、パジャマ姿で走り出す。
──くっ。こんなことなら、着替えるんじゃなかった。
連日の騒動で洗濯が間に合わなかったのだ。唯一残っていた、『どこかで見たようなクマ』のキャラが背中に大きくプリントされているパジャマで、地下へと続く階段を駆け降りていく。
PCにかじりつくようにして操作していた目黒が、焦った様子で伝えてくる。
「電話、暗号化処理完了です。──着電っ!」
緑川は受話器を持ち上げる。
電話は課長からだった。
「加藤が襲撃を受けた。ダンジョン公社『ゆうちゃんねる』特別対策チーム支部地下、対策分室は現時点をもって、完全封鎖。防衛に努めよ」
「はっ。封鎖措置開始!」
「封鎖開始しますです!」
それは心配していた事態。しかし意外なのは課長の指示が防衛だったことだ。それは、ここ対策分室も、これから襲撃を受ける可能性を課長が考えている、という事でもあった。
「襲撃者についての情報はありますか?」
「ない。しかし条約批准国のうちの、ユニークスキル『
重々しく告げる課長。
進化律によって人類に許諾されている37のユニークスキル。その中でもハローフューチャーとグッドアイズはハードラックに並ぶ最上位のユニークスキルだった。
──どちらも厄介、なのよね。ユニークスキルは使用に代償はあるけれど、対抗手段が無い。
そしてそれは政治的にも最悪の知らせであった。
その二つのユニークスキルを保有している二か国は、どちらも我が国にとっても最重要の友好国。
──どちらの国がアトミックビーの蜂の巣を手にしたとしても、新理論による全く新しい核融合炉の開発に独力で成功しうる可能性が高い。
つまりは、世界のパワーバランスが今まさに書き変わる瀬戸際と言えた。
緊迫の空気の中、再び課長が口を開く。
「まて──」
どこかからか報告を受けている様子。
「追加情報だ。敵は襲撃に失敗。積み荷は無事だ。加藤も──生存を確認」
「加藤先輩! よかった──」
「現場の動画を送る。断片的だが襲撃者のウェアラブルカメラ画像もある。至急で解析を」
「はっ!」
「すでに取りかかってますです──一次結果、出ました。これは……クロさん、です。現場からクロさんが飛び去る姿が映っていました」
課長に目黒の解析した結果を伝える。
「ついに、特殊個体化したか。まずい。緑川、本日
「はっ」
緑川の返事で、課長からの電話が切れる。
──はぁ、今日は徹夜か
こっそりとため息をもらす緑川。しかしすぐに目黒へ告げる。
「三時から対策会議。急いで封鎖解除作業を始めましょう」
あわただしく動き出す二人であった。
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