第44話 深夜会議

 深夜三時。


 着替えが間に合わずにパジャマ姿のままの緑川とシワのよったスーツ姿の目黒の前に四人の人物が座る。


 一人は双竜寺課長。その横に控えるように江嶋さん。二人とも下ろし立てのようにパリッとした服装だ。


 残りの二人は、真っ黒な喪服のようなスーツをまとい、顔には真っ白な布をかけている。


 ──ダンジョン公社の『長老会』。ああ、せめて着替えておきたかった。


 封鎖解除と画像解析、会議の準備に追われて結局そのままの姿で参加することになったのだ。


 課長が口火をきる。


「封印区で撮影した加藤の動画だ」


 くるりと自分のノートPCの画面を緑川たちに見えるように動かす。

 動画の中で加藤の口から襲撃の様子が語られていく。


 今回の襲撃で、加藤がダンジョン公社側の唯一の生存者だった。


 トラックに乗っていた輸送部のメンバーは全員、死亡。死因は切創と刺創によるものと見られている。ダンジョン産の強化された武器の使用の可能性が高いそうだ。


 加藤の証言が終了する。ただ、ブラックボックスの中にいた加藤の証言は基本的に音に関するものだけだった。

 それでもいくつかわかったことがある。


「襲撃者の撃退時は、何も音が聞こえなかったということですか」

「そうだ。次に現場に残されていた襲撃者だ。現場の様子からみて襲撃者は六名以上と推察される。うち二名が現場にて死亡を確認。他二名が、それぞれ現場から600メートル、1500メートル離れた場所で死亡が確認されている。江嶋」


 名を呼ばれた江嶋が手元の資料をめくる。


「現場の二名は自死でしょう。襲撃者の手の爪の間の肉片も、襲撃者自身のものでした。詳細な写真はお手元の資料を」


 緑川は凄惨なその写真を冷めた目で見つめる。

 目黒はうへっといった顔をしている。


「距離が離れた位置で死亡していた二名は正常な理性を失った上での事故との見解が現場より上がってきています。こちらも妥当な判断かと思われます。残りの襲撃者の足取りは不明です。現在、総力を上げて足取りを追っています。ただ、逃走の補助にユニークスキルが使われた可能性もあります」


 その報告に頷く課長。


「最後に目黒、解析結果を」

「はいです。画像解析の結果をシミュレーターにて再現してますです。──ここでクロさんが隠蔽を解いて、上空より降下。何らかのホログラム画像を見せることで、襲撃者を撃退したと思われます。残念ながら断片が映っている画像しかなく肝心の部分はシミュレーションできていません」

「で、その断片から、目黒はなんだと思う?」

「──ユウト君の変質していくホログラム、かと思います」


 そこまで黙りだった『長老会』の二人が急に話し始める。


「その娘の推測は妥当だ」「最も黒き黒の時代が始まったのだ」「緑川よ。善き隣人たれ」「縁を繰るそなたにしか果たせぬこと」「人類の存亡はそこにある」「クロは黒の影に過ぎない」


 ピタリと口を閉じる『長老会』の二人。

 流れる静寂。それを、断ち切るように口を開く課長。


「襲撃者への捜査は継続。ユウトとクロへの対応はこれまで通り、善き隣人としての振る舞いを徹底。そして今後、ユウトの作戦時の呼称を『黒き黒』とする。会議は以上だ」


 こうしてユウトの知らぬ間に、ユウトの新しいあだ名が増えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る