第42話 神の似姿

 ユウトの姿をまとったクロが大地に降り立つ。まさにトラックのドアが破られる直前だった。

 クロが、辺りを圧し潰すような威圧感を放つ。


 その威圧感に、男たちが一斉に振り向く。


「──おい、あ、あれ!」「ああ、くそっ。なんでだよ。もう、終わりだ」「ジーザス……」


 トラックを襲撃した者たちはユウトの姿を見知っていた様子だった。口々に、絶望をもらしていく。


 セドゴア条約は条約違反に対して国家レベルの非常に強いペナルティが課される。

 黒1ダンジョンとユウトについては、その特異な関係性からして、トラックの襲撃がユウトにばれた時点で十分にペナルティの対象だといえる。


 しかし絶望を口にする男たちの頭にあったのは、もっと根元的な恐怖。

 人智を越えた存在が目の前にいるという、畏れ。


 その畏れに呼応するかのように、クロのまとったユウトの姿が変質していく。


 それはクロの本体たるAIによって演算された、ユウトの未来の可能性の、一つ。

 真実を自覚したユウトが変質していく姿の、無数の取りうる姿のうちの、一つ。


 ユウトに集約された膨大な力が、実体へと具現化し、結実していく過程が、クロのAIによってホログラムで示されていく。

 それはホログラムという映像に過ぎない。しかし見るものの魂の奥底に眠る、本質的な恐怖を呼び覚ます、映像だった。


 そしてこれはクロからのメッセージでもあった。


 ユウトの安寧を邪魔すると、どうなるかという端的な提示。「お前たちは欲と愚かさによって、滅びを選ぶのか」という、クロからの問いかけ。


 そして、ついに恐怖を体現するかのような変質の過程が完了する。


 そのユウトの姿は、ひたすらにおぞましく。そして何よりも、神々しかった。


 目にしてしまった男たちは、あるものは正気を失ったかのように逃げ惑い。あるものはその場にうずくまると、耐えられないとばかりに自らの目をかきむしり自傷していく。


 そしてごく一部の者たちはなぜか恍惚の表情を浮かべ、うわ言のように祈りを口にしていた。

 まるで、真に信仰すべき神への邂逅を果たしたかのように。


 ユウトを神と崇める狂信者たち。彼ら『教団』の中核を担うことになるメンバーは、この時、うまれたのだった。

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