第41話 おでかけ

 ユウトの部屋。

 寝息だけが聞こえてくる。


 充電器の上に、クロの姿はない。


 そのユウトの部屋のタンスの中。

 たたまれた状態で、ユウトのツナギがしまわれている。


 そのポケットには、黄金の懐中時計が入れっぱなしになっていた。


 突然、懐中時計の針が激しく回転を始める。

 激しく回り続ける長針と短針。


 やがて二つの針が、2の文字の上でピタリと重なって止まる。しかし、ぐっすりと眠るユウトには、それは気づかれることはなかった。


 同時刻。


 クロの機体が、ちょうど黒1ダンジョンの境界を、越える。


 ◆◇


 夜に溶けるような色合いのホログラムをまとい、空を自由気ままに滑空するクロ。

 その様子を見ている者が居たならば、まるで、クロが飛ぶこと自体を楽しんでいるのかと誤解してしまうだろう。


 そんなクロの振るまいは、緑川にもユウトにも見せたことの無いものだった。


 知性と自我を獲得したあとも存在進化を続けていたクロの中で、クロ自身も認識していない一見ノイズにすら思えるような何かが、着実に積み重なってきていた。


 ふとクロが滑空をやめて空中に停止する。

 真下には緑川たちの家──ダンジョン公社の支部。


 その周辺に不審な車両がいくつも見える。

 それらは今、緑川たちの家を出発した一台のトラックを追いかけていく。


 静かに空中を滑るようにして、クロもそれらの車両の後を、追い始めた。


 ◇◆


 不審な車両が山道の前後からトラックを挟むようにして距離を狭めていく。トラックは強行突破することも出来ただろう。しかし、そうすることはせずに、不審な車両が減速するにあわせて速度を落としていく。


 まるで不用意な衝撃が、積み荷に対して甚大な影響を与えるのを危惧するような動きだ。

 不審な車両から、武装した男達がバラバラと降りるとトラックへ攻撃を加える。

 銃は使用しないようだ。揃いの大振りの鉈のような物で、強化されているトラックの外装に切りつけていく。


 対抗するようにトラックに乗った者達はどこからか取り出した銃のようなものを構えると、発砲を開始する。


 クロは上空からそれらを観測する。

 しかし、トラックの男たちの劣勢が決定的になったところで、ついにクロが動き出す。


 夜に紛れるためのホログラムを解除。

 新たなホログラムをまとい、一気に降下していく。

 その新たなホログラムは、ユウトとうり二つの見た目をしていた。

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