第40話 トラック

 闇夜に紛れるようにして、一台のトラックが緑川たちのいる建物へと近づいていく。

 入念に宅配のトラックに偽装されているが、知識のあるものが見ればその特殊性は見抜けるだろう。


 音もなく止まったトラックから、宅配業者の制服を着た男たちが降り立つと、インターホンを鳴らす。


「冷蔵庫のお届けです」

「ご苦労様です」


 インターホンから目黒の声がすると、がちゃりとドアが開く。

 そっとばれないように周囲を伺う目黒。

 すぐさま、トラックから下ろされた大型のが、ドアのすぐ外まで運ばれてくる。


「クリア」


 目黒が背後に小声で鋭く告げる。

 外からの視界を塞ぐように冷蔵庫のドアを開けて、さらに周囲にたつ宅配業者姿の男たち。

 その冷蔵庫の中身はがらんどうだった。ただ、中の壁には衝撃吸収用らしき素材が敷き詰められ、さらには拘束具らしきものも設置されている。


 両手でビニール袋の口を握りしめた加藤が、急ぎ足で家から出てくる。そのまま冷蔵庫に見えたその大きなボックスへと入る加藤。


「固定具、オッケー」「オッケー」


 手早く加藤を冷蔵庫の中に固定すると、小声でやり取りする男たち。目線で男たちが目黒に告げる。


「ちょっとー。注文したのと色が違うです。こんなの受けとりませんです」

「大変失礼いたしました。すぐに持ち帰って代わりの物を手配します」

「よろしくです」


 わざとらしく大声でやり取りする目黒と宅配業者姿の男。特に目黒は少し棒読みだ。

 すぐに男たちは加藤が入った冷蔵庫をトラックに積み込むと、そのまま立ち去っていった。

 家に戻った目黒は、ユウトの家の監視に地下室へ向かう。そこへ緑川が合流する。


「目黒、任せちゃってごめんなさい」


 よろよろと口許を拭いながら緑川が謝る。


「緑川先輩、もう大丈夫ですか? 加藤先輩は無事に輸送部が搬出していきました。輸送部も最新型の黒級危険物品に対応したブラックボックスを用意してましたけど……」


 冷蔵庫の感想を濁す目黒。


「まあ、気休めよね」

「『不運ハードラック』の見立てでも、やっぱりそうですか」

「『解析サードアイ』でも、そうでしょう? あのユウト君が用意したビニール袋。たぶんユウト君の魔法剣士として、無自覚な力の一端なんだろうけど。信じられないぐらいの魔素で封印されている。あれの口を開けた瞬間から、何が起こるか全くわからないわ」


 一度言葉を切る緑川。祈るように呟く。


「どうか何事もなくダンジョン公社の本部地下、封印区まで届いてくれることを願うわ」

「──緑川先輩は、外からの横槍があると、ですか?」

「セドゴア条約批准国も、一枚岩じゃないわ。あの動画をみて、各国に所属している『解析』持ちならその可能性に気がつくでしょ?」

「アトミックビーによる全く新しい核融合炉の可能性、ですね」

「ええ。いつも欲に駆られるものは出てくる。でも、それぐらい本部も想定しているはずよ」


 それがまるでフラグだったかのように、そのすぐあと、加藤を詰め込んだ冷蔵庫は襲撃に遭うこととなる。


 ◇◆


 アトミックビーの残骸のお片付けのお手伝いしたクロはお駄賃としてその一部を今回もユウトから貰っていた。

 ホログラムを解き、いつもの充電器におさまってじっとしているクロ。実は少し前から、すでに充電が不要な体になっていたのだが、クロにとって充電器の上は落ち着く場所だった。


 そこでアトミックビーの高濃度魔素結晶体との融合をはたすと、新たな存在進化を遂げるクロ。

 そしてクロはついに特殊個体となる。


 黒1ダンジョンから、おでかけ出来るようになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る