第38話 ライブ配信

「加藤先輩! 緑川先輩! ゆうちゃんねるの動画配信予告です。開始時刻は──三分後、ライブ配信!」

「緑川! 関係各所に緊急通達!」

「はい!」


 それは、クロがゆうちゃんねるを限定配信に切り替えた翌日の午後。ホームセンターに寄ってから帰宅したユウトの準備が終わったタイミングのことだった。

 各国がその動画内容に戦慄することとなるライブ配信が、今まさに始まろうとしていた。


「動画、出ます!」


 各々のモニターに食らいつくようにして目を凝らす緑川たち三人。


「ここは、ユウト君の家の裏手?」

「お待ちくださいです──衛星画像と照合完了っ、間違いありませんです」

「ユウトのこの格好はなんだ? いつもの強化されたツナギじゃないな」


 加藤の疑問に、カタカタとキーボードを打ち込んでいる目黒。


「出ました。近隣のホームセンターで市販されている防護服のようです。裏付け、とりますか?」

「いえ、まだいいわ。それより、うっ……軒下の、あれを、解析……」


 口許を押さえて、画像を見ながら必死に吐き気を押さえている様子の緑川。

 ユニークスキル不幸ハードラックが緑川に最大級の警戒を伝えてきていた。泣きわめき、這ってでも逃げたい衝動を、必死に理性で抑え込む緑川。


「『解析サードアイ』──出ました。色別脅威度、黒。データベースには該当モンスターありません。名称は、アトミックビー、です」

「特性まで見えるか、目黒」

「あ、あ──」

「しっかりしろ、目黒!」

「集まって体温をあげる熱殺蜂球ねっさつほうきゅうで、数千度以上に、なります」

「──太陽の表面温度並みかよ。本部に最悪の事態での被害規模を算定させろ、急げ!」

「加藤先輩、ユウト君が動き出しました」


 緑川の完全に感情を殺しきったかのような平坦な声。


 画面のなかで、ユウトによるセルフ蜂の巣除去が始まった。


 ◆◇


 蜂の巣の除去自体はあっという間に終わった。

 ユウトが最初に取り出したのは市販の蜂専用の殺虫剤数本。

 どうやらユウトは蜂をミツバチだと思っているらしい。


 適切な距離を開けて薬剤を吹き付けるユウト。しかし当然、全く効果はない。二本目を吹き付けても変わらぬ蜂の様子に、首を傾げていたユウトだったが、どうやらそこで物理的に対処をすることにしたらしい。


 そこからは、あっという間にだった。


 目にもとまらぬ速さで死滅していくアトミックビーたち。

 数匹、防護服の隙間から入り込んだようだが、ユウトの肌に傷一つ、やけど一つ負わせることは叶わなかったようだ。


 そして、ユウトが蜂の巣を力ずくで家の軒下から外したところで、ライブ配信は終了する。


 呆然とモニターの前で佇む三人。

 そこに一通のメールの着信音が響く。とても不吉な音色で。


「……加藤先輩、目黒。クロさんからメールです」


 緑川の震えた声が、告げる。


「除去した蜂の巣を、くれるそうです。ユウト君が、来ます」


 再び、事態は慌ただしく動き出すこととなる。


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