第37話 限定

 ──ダンジョン公社『ゆうちゃんねる』特別対策チーム支部地下、対策分室にて──


「緑川先輩! お勤めご苦労様です」

「緑川! まずは座れ。無事の帰還、何よりだ」


 ユウトの自宅を訪ねて帰ってきた緑川を最大限労る目黒と加藤。


「目黒、それは使い方が違うからね。あ、加藤先輩、お茶ありがとう。はぁ、とりあえずはこちらの希望は伝えられたわ。あとはクロさんが──」

「あ、早速『ゆうちゃんねる』が会員限定配信に切り替わっています! 課長からのゴー、出ました。事前に準備していた国内外の会員希望者のリストを、クロさんに送信しますです!」


 モニターを見つめていた目黒の叫び。その指は忙しくキーボードを打ち込んでいる。目黒の送信したリストというのは、セドゴア条約を批准している各国の首脳部が中心だ。


「クロさん、判断がはやいっ!」


 ぐったりしていた緑川がガバッと身を起こすと、モニターに食らいつくようにして身を乗り出す。

 先ほどの緑川とクロの話し合い。スキル「ハードラック」で数日間不幸を前借りして臨んだ成果が、今まさに結実しているところだった。


「ゆうちゃんねるから、ダンジョン公社にも会員用の動画閲覧許諾、来ました! 登録完了です! ──すごい勢いで限定会員が増えています」


 外圧に負けての今回の任務。果たしていくらハードラックを使用したとしてもクロが受けるかは半々だろうと見積もっていた緑川たちの予想は、良い方向で裏切られた結果となる。


 今回のゆうちゃんねるの会員限定化によって、各国の予算から見ても決して安くはない月額金額が、ユウトの秘密口座へと振り込まれる事となる。

 しかし、黒案件たるユウトの情報には、それだけの価値を認めている国が多いということでもあった。


「緑川先輩、課長からです。暗号化済みです」


 緑川は、目黒が回してきた電話に出る。


「緑川、まずは任務の成功おめでとう。流石だ」

「ありがとうございます」

「それで、ユウト君の自宅。ダンジョン区域の外からの目視で、何か見えたか?」

「目視した限りでは大きな異変は見つかりませんでした」

「そうか。それは朗報だ。ゆうちゃんねるが会員限定になったとはいえ、余りに衝撃的過ぎる動画は不要な波風を起こす。動画の内容は代理人たるクロに一任せざるを得なかったとはいえ、な。会員限定後の最初の動画は数日以内にアップされるだろうが……」

「はい。さすがに、これまでの霊草やジェノサイドアントほど刺激的な動画は流れないと思います」


 緑川も課長の予想に同意する。


 しかしその翌日には、その楽観的な予想は簡単に外れることとなる。


 ユウトによる蜂の巣のセルフ駆除が、クロによってライブ配信されるのだ。ジェノサイドアントすら可愛く見えるぐらい凶悪でかつ魅力的な性質を秘めた蜂──アトミックビーの巣を駆除する動画が。

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