第35話 side緑川
ユウト君と早川さんが出ていく。
じっと二人の後ろ姿を見ていた課長が、はぉと大きくため息をつく。
「それで、緑川。タロマロさんにはどこまで話してある?」
「ランクBの情報までです。現地協力員として仮契約を結びました」
「よろしい。タロマロさん、君の協力は心強い。よろしく頼むよ」
「恐縮だ。双竜寺さん」
握手をかわす課長とタロマロ。
「それで課長、状況はどんな感じですか」
「混沌としている。我々のコントロール下を離れるかの瀬戸際だな」
「そこまで、ですか」
「ああ。実質青相当のダンジョンの単独踏破だ。世界で見ても二例目となる」
「やっぱり赤8ダンジョンは青まで難化したんですね。それで討伐者はどう発表するんですか」
「どうしたらよいと思う?」
私と課長のやり取り。逆に質問されてしまう。
そして自然と私たち二人の視線は今回ダンジョンにいた中で最もランクの高い探索者へと向かう。
「いや、無理だぞ! だいたい俺は存在進化値も公開してるだろ。青級のダンジョンボス討伐したのに、それが変わってなかったら、当然嘘だってバレるぜ」
「ですよね」
私はそうだよなとため息をつく。基本的に高ランカーでダンジョン配信をしているものたちは、皆そうだ。
課長もタロマロの言葉に重々しく頷く。
「公式には不明とするしかないだろう」
「──ということは非公式があるのですね」
「そうだ。各国上層部から問い合わせが殺到している。黒案件は、セドゴア条約によって報告義務があるからな。各国の注目が集まっていたところでの今回の青の単独討伐だ。色めき立つのも仕方ない」
「滅びし大陸、セドゴア。世界初の黒級ダンジョンの出現地。その暴発によって滅んでしまった、かつての大陸の跡地たる海洋上で調印された条約ですね」
私と課長の話を嫌そうな顔をして聞いていたタロマロがぽつりと呟く。
「外の連中は、それだけじゃ済まないんじゃないですか、双竜寺さん」
「察しがいいな。そうだ。情報のより精度の高い共有を求められている」
「具体的には?」
「動画による随時の情報提供だ」
「え、そんな! 情報の秘匿に関するコンセンサスはとれるんですか?! 突っぱねましょうよ」
「残念ながら、決定事項だ」
「つまり……」
「そうだ。済まない、緑川。最大限のフォローはする。代理人との交渉を頼む」
「っ! はい。善処します……」
「緑川……」
「タロマロは黙ってて。それでは私はユウトくんが待っているので、これで失礼いたします」
「わかった。頼む。タロマロさんはもう少しいいか」
私は課長に退出を告げ、背を向ける。
ぐるぐると無数の不安が頭の中を駆け巡る。
しかし私は意識して気分を切り替えると先ほどの天幕へと向かった。
【あとがき】
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