第34話 水とコーヒー
辺りは一気に雑然とする。
数人いた怪我人はあっという間に運ばれていき、それ以外のダンジョンの存在進化に巻き込まれた俺たちのような一般人は、一ヶ所に集められていた。
警察と消防、そしてダンジョン公社により持ち込まれた集会用テントと折り畳み椅子が手早くいくつも設置され、その中で待つように言われる。
俺と早川と緑川。それになぜかタロマロも一緒にいた。
「俺の権限で二層にいたからな。監督責任が発生するのさ」
「そういうものなんですね。それで、これからどうなるんですか?」
「まあ、簡単に事情聴取はされるが、ユウトたちはすぐに解放されると思うぞ」
そんなことを話していると係の人に呼ばれる。
向かった先にいたのは責任者らしき風貌の男性と事務職っぽい女性だった。その手もとには俺もダンジョンに入るときに書いた同意書を持っている。
「ダンジョン公社課長の
「探索者登録No.315-237-001チーム『昔日の恩讐』リーダー、田老麿贄だ。ダンジョン管理法第27条三項に基づき、こちら三名を同行者枠にて赤8ダンジョン二層に引率していた」
「その際にダンジョン進化に巻き込まれたで間違いないかな」
「ああ、間違いない」
そのまま一人ずつ、俺たちは双竜寺にダンジョン内での事を話していく。
最初は無理を言ってタロマロに二層に連れていってもらった事を怒られるかな、と不安だったがどうやらちゃんと法的に問題なかったようだ。
一通り話し終えると、俺と早川は解放となる。
「早川さんはご両親に連絡がついています。迎えに来るそうですので先ほどのテントでお待ちください」
江嶋と紹介された女性が早川に告げる。
「あ、ユウトくんは私が家が隣なので送っていきます」
「全然、一人でも帰れますよ」
「ダメよ。これも大人の責務ってやつなの。まあ、ダンジョン公社の人にお願いしてもいいけど」
俺はそういうものかとしぶしぶ、同意する。
「じゃあ、ユウトくんも早川さんと待っててね?」
「わかりました」
そう告げて俺と早川は一足先にテントへと戻った。
◆◇
「パパとママが来るのか」
「なんだ、あんまり嬉しそうじゃないな」
「二人とも心配症なんだよね。あとちょっと大げさというか」
「ああ。──まあ、ほどよい距離感て、大事だよな」
「そうだよね! ユウトもそう思うよね!」
そんなことをのんびり話していると、ダンジョン公社の係員っぽい人から飲み物をいるかきかれる。しかも、水かコーヒーか選べるらしい。
俺は水のペットボトルを、早川は缶コーヒーをありがたくもらう。
「すごいね、ダンジョン公社って。警察と消防よりも権限が上だし、何よりすごい手慣れてる感じする」
「そうなんだ」
感心している早川に同意していると緑川も戻ってくる。顔色が悪く見える。
「緑川さん、大丈夫ですか?」
「え、大丈夫よ。あら、それ配給? 私も貰ってこよ──」
その緑川の声を遮るように、騒がしい声が辺りに響く。
「マイスイート、プリンセスっ!!」
「ひめちゃんーっ! よかった。よかったわ、無事でー!」
早川の両親が着いたらしい。
飛びつくように抱きしめられ、ひとしきり両親からもみくちゃにされる早川。そのまま、質問攻めだ。それに受け答えする、達観したような早川の表情に、俺は秘かに頑張れ、とエールを送る。
早川がようやく両親を引き剥がすと、俺たちの事を紹介してくれる。
一転してとても落ち着いた雰囲気を漂わせて、俺と緑川に話しかけてくる早川のパパとママ。
「君がユウト君だね。いつも娘から話はきいているよ。うちの娘が迷惑ばかりかけて済まないね。今日は娘を助けてくれたのだろう? 本当にありがとう」
深々と頭を下げてくる早川パパ。早川ママも緑川に感謝を伝えている。
「あ、いえ、そんな俺は何も──」
「極限状態で、娘を見捨てても誰も君を咎められない状況だ。そこで君が娘を助けてくれた行動は称賛に値する。そんな謙遜は不要だと、私は思うよ。ユウト君」
どうやらす巻きにして運んだ件のようだ。俺は背中に汗をかきながら、それでも冷静を装って応対する。
「あ、はい。ありがとうございます」
そして早川パパと早川ママは早川を連れて嵐のように去っていった。
「さて、送ってくわ。ユウトくんは自転車?」
「──そうです」
「じゃあ、車に積み込んじゃいましょうか。こっちよ」
「……」
「……」
「──なかなか、強烈なご両親だったわね。いい人っぽいけど」
「──ですね」
俺はそこでなんだか少し緑川と通じあったような気がした。
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