第33話 ダンジョン公社

「緑川さん! ──私たち、助かったんですよね」


 早川が緑川へ駆け寄り、ぎゅっと抱きつきながら確認している。


「ええ、もう大丈夫よ」


 安心させるように抱きしめ返す緑川。

 その二人の横で、俺はタロマロに質問をする。


「大丈夫でしたか、タロマロさん。めちゃくちゃ吹っ飛んでいたみたいですけど」

「はは、見られていたか。いやなに、問題ない」

「それは良かったです。それで、早川から聞いたんですけどこれってダンジョンボスが討伐されてこうなってるんですか?」


 俺は周囲をうめつくすようにフワフワと立ち上っている白い光を指差す。

 ちょうど一つ立ち上ってきた光が俺の指先に触れてパチンと弾けて消える。


「そうだな。ダンジョンボス撃破によるダンジョンの消失現象だ」

「タロマロさんたちが討伐したんですか?」


 俺の質問にすぐに答えないタロマロ。緑川さんも早川との抱擁を解いて、こちらを向く。


「いや、違うんだ。ちょうどさっき、緑川ともその話をしててな。ユウトと嬢ちゃんは何かそれらしい奴を見かけたか?」


 一見、不思議そうな顔をしているタロマロ。しかし、タロマロも緑川もその瞳はとても真剣なのがわかる。


 ──俺と早川を不安にさせないように軽い感じに訊いてきている? けど、俺たちの返答、かなり重要視されているって感じかな。残念ながら、大したものを見てないんだよな。


「うーん。申し訳ないんですけど、大したものを見てなくて。最初に落ちたところは結構薄暗くて。ほんと所々、影の濃いって感じの場所でした。それで少し歩くと広い空間に出たんです。いろんな種類の虫がいっぱいで。気持ち悪かったです。でもすぐにいなくなってました。それぐらいです」

「私は、気を失っていて。気づいたらすぐにダンジョン消失でした」


 たいして役にも立たないであろう、俺たちの見たことを告げると、なぜかホッとした雰囲気が漂う。


「そう。その様子だと、二人とも怪我とかもしてなさそうね」

「はい。虫を踏んでしまって長靴が汚れたぐらいです」

「そ、そうなのね」


 こちらを気遣うような笑みをして質問してきた緑川の顔が、俺の足元を見てひきつる。


 ──あ、緑川さんも虫とか苦手なのかな。申し訳ない。


「まあ、誰がダンジョンボスを討伐したかはここで話していてもらちがあかなそうだな。そういった調査は、上の偉いやつらがやるだろうさ。ほら、話をしてたら来たぞ」

「あれは、うわー。ダンジョン公社だ!」

「ダンジョン公社って、なに? 早川」

「えっとね、たしか国からダンジョン関連の業務を任されてる中で一番大きいとこ。エリート揃いなんだよ!」


 揃いの制服を着た集団がこちらへ向かって歩いてくる。その後ろには、消防やら警察やらの車両が次々に現着していた。


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