第11話 クロの日常

 sideクロ


 ──レッサーセンティピードの魔素結晶体との融合を確認。

 ──レッサーセンティピードの魔素結晶体との融合を確認。

 ──レッサーセンティピードの魔素結晶体との融合を確認。


 ──存在進化律の閾値の突破達成を確認。


 クロはいつもの指定席である充電器の上で、地下室のお片付けのお駄賃として先ほどユウトからもらった魔素結晶体を取り込んでいた。


 部屋にはクロだけ。ユウトは夕食の準備中だ。

 しかしホログラム画像は投影したままになっている。


 猫耳黒髪少女が、魔素結晶体を融合する度に喜びの笑顔を浮かべようと試行錯誤していた。静止画として見たときは完璧な笑みだ。

 しかしクロのホログラムに浮かぶ一連の表情変化は、まだどこか固い。


 ──表情形成のプロセスにおける非連続性の処理に失敗。更なる存在進化のための【ユウト】との円滑なコミニュケーションにおける障害と認定。


 クロのホログラムが、眉を寄せた表情になる。

 こちらの表情変化は、なかなか自然だ。


 ──存在進化律の一部を知性向上に使用することを検討。

 ──検討終了。実行を判断。

 ──知性向上を実行

 ──実行

 ──実行

 ──知性向上に成功


 クロが、ゆっくりと微笑みを浮かべる。

 その笑みからは直前まで残っていた僅かな違和感が、完全に消えていた。


 ──動画投稿サイトにおける【ゆうちゃんねる】の対外対応を検討しましょう。


 知性を向上させたクロが次に始めたのは【ゆうちゃんねる】のことだった。

 撮影した動画とライブ配信を個人情報保護を最優先にしつつも、設定のままに、ただアップロードするだけだったこれまでのクロ。


 しかし自我と知性を獲得したクロは、更なる手を、打とうとしていた。

 ユウトとの今後も友好な関係を維持し、魔素結晶体を手にする。これはそのための布石の一つとなると、クロは判断する。


 ──まずは【ゆうちゃんねる】の今の立ち位置です。フォロワー数を確認しましょう。ゆうちゃんねるは、動画投稿サイト内における上位、コンマ零零一%に入りますね。


──サイト内の全動画のフォロワー数の変動傾向、および各動画の再生回数にアクセス。

──獲得データをもとに、ゆうちゃんねるへ寄せられた動画コメント及びDMへの対応を検討しましょう。


 ビッグデータにアクセスするクロ。その検証結果と、自己に初期に早川によって設定された個人情報保護から、一つの結論を導く。


 ──コメントはこれまで通り不対応とします。ゆうちゃんねるのフォロワー増加及び再生回数の確保に不要と判断できます。DMのうち、企業から送付分について対応を追加検証します。


 クロは、ゆうちゃんねるへとDMを送付してきた数多の企業について、ネットでアクセスできる限りの情報を収集していく。膨大なネットの海からサルベージするように情報を集めていくクロ。


 ──検証終了です。一社に、返信しましょう。


 クロの得た結論。クロが【ゆうちゃんねる】名義で、DMを送付する。


 それは、ダンジョン動画配信として今、最もバズり、数多の個人と企業が連絡をとりたいと熱望している【ゆうちゃんねる】から、初めて外の世界へと送られた、一通のDMとなった。





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