第7話おまけ②「先代」






世直し、  始めました。

おまけ②「先代」



 おまけ②【先代】




























 それは、数年前に遡る。


 夜中、遵平が本を読みながら歩いていると、怪しげな男が公園にいた。


 別に気にしていなかったが、公園は家への近道だったため、遵平は尾行とかそういうことではなく、通り抜けるために足を向ける。


 すると、どこからか男の呻き声が聞こえてきた。


 それでも気にせず歩いていると、遵平の前に先程の怪しい男が現れた。


 「・・・邪魔なんだけど」


 「見たか」


 「は?何を?」


 「見たのか聞いてるんだ」


 「だから何を?」


 ふと、男の後ろの方で横たわっている別の男に気付いた。


 その男は起き上がる気配がないが、特に血なども出ていなかった。


 「見たな」


 「見えただけだし。何?」


 「・・・違うだろ」


 「は?何言ってんの?」


 「普通ならもっとこう、もしかして殺人鬼かと思って怖がるとか、警察に通報しようとするとか、あるだろ。なんで本読んでるんだよ」


 「いやだって興味ないし。あんたにもその男にも。そこ邪魔だから退いてくんない?」


 「実はさ」


 「なんでそうなるの」








 その男は、遵平に見られたことを知ると、なぜか勝手に話し出して来た。


 「実はさ、世直しっていうのをやっててね」


 「ふーん」


 「もっと興味持ってほしいけど、まあいいや。でね、さっきの男は、女の子を襲っては写真撮って脅してた奴で、女の子も被害届を出せないでいてね、だけど男はそれを止めなくて。世直しってことで、あの男を殺したんだけど、それを君に見られたってこと」


 「あっそう」


 「・・・あのね、やっぱり見られたってことは、そういう人がいるってバレたってことで、世直しはこれ以上出来ないでしょ?」


 「なんで?」


 「なんでって、だから、正体がバレたんだから、仕方ないだろ」


 「別に俺言わないし。てか、さっきも言ったけど、あんたにも男にも興味ないから。だから安心して続けてよ」


 「・・・一カ月くらい前、議員で事故に遭った人いたよね?」


 「議員?事故?・・・ああ、いたような、いなかったような」


 「どれだけ関心ない子なんだろうね。その人もね、実はやったの俺なんだ」


 「へえ」


 「へえって・・・」


 「いいじゃん、世直し。確かに、法律じゃ裁けない奴とか、法律に守られてる奴なんてごろごろいるから。続けなよ。俺言わないし」


 「そうじゃなくてね。決まりがあって」


 「決まり?」


 「そう。もしも世直ししてるところを見られたら、その人が世直しを受け継がなくちゃいけないの。だから、今回のケースは君ってこと。ああ、安心して。どういうことをするのか、どうやるのか、どういう奴をターゲットにするのかはちゃんと引き継ぐから」


 「やだ。面倒臭い」


 「だめ。やって」


 「絶対やだ。面倒臭い」


 「絶対だめ。やって」


 「てかさ、それ、この世の中にどんだけ世直ししてた人がいるってわけ?おかしくない?みんな平然と生活してんじゃん」


 「世直しが世代交代するときはね、なぜか記憶が消えちゃうらしいよ。不思議なことなんだけどね。だから大丈夫。街中で君と出会っても、俺は何も分からない」


 「あー、やだやだ。考えただけで面倒臭いじゃん。俺行動するの苦手」


 「じゃあ、詳しいことを話すね」


 「聞こえません」








 一方的に男から話しを聞くと、男はすっきりした顔立ちで手を振って去って行った。


 それから数日経って、遵平は偶然、その男を見つけた。


 男の肩に手を伸ばし、声をかける。


 「ねえ、あんたさあ」


 しかし、男は遵平の顔を見ると、首を傾げてこう言ってきた。


 「あの、すみませんが、どなたですか?」


 「あんた、何言ってんの?」


 「すみません、仕事があるので」


 嘘でも言っているのかと思ったが、そうは思えなかった。


 数日間、男の行動を逐一見ていたが、確かに、世直しをしていた頃の記憶が消えているようだった。


 もしかしたら、とんでもなく面倒なことに巻き込まれてしまったのではないかと思った遵平だが、それよりも腹が減った。


 いつものところにいれば、あの五月蠅い男がやってきて、お菓子を奪えるはずだ。


 そう思った遵平は、歩む方向を変える。


 「あ、またいたね。君はいつもそこで寝てるね」


 「お前もいつもここに来るよ」


 「そうだね。似た者同士だからかな」


 もらったお菓子を口の中で味わいながら、まだ読み途中の本を開く。


 だが、遵平の心は、何処か遠くへと行ってしまったようだ。


 それから少しして、ニュースが流れる。


 「通り魔として逮捕された男は、精神鑑定の結果、無罪をなりました。これまでに通り魔の犠牲者の数は30名ほどとされてきましたが、余罪もあり、全部で50名以上犠牲者がいるものと思われます。しかし、正常な判断が出来ない精神状態だったということで、警察も起訴を断念したということです」


 「・・・・・・」


 遵平は身体を起こすと、欠伸をしながら立ち上がる。


 「どっか行くの?」


 「ああ、ちょっと・・・」


 「ちょっと?」


 「んー・・・。なんてーか、弔い合戦?」


 「はあ?」








 『えー、ただいま入ってきた情報によりますと、昨日無罪になった通り魔の男は、起訴されることになりました。精神鑑定を行った医師によりますと、精神疾患は演技だったとのことで、男は逮捕、起訴となるそうです。また新たな情報が入り次第、随時、おってご報告したいと思います』


 遵平はテレビの電源を切ると、枕に顔を埋める。


 すでに身体にかかっている布団の面積は半分ほどになっているが、そんなこと気にせずにもう一度眠りにつこうとする。


 しかし、うっすらを、どこを見るわけでもなく開かれた目は、鈍く輝いている。






 「はあ・・・。まじ面倒」




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世直し、始めました。 maria159357 @maria159753

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