第6話おまけ①「雨の日」





世直し、  始めました。

おまけ①「雨の日」



 おまけ①【雨の日】




























 「遵平、何してるの?」


 「炬燵に入ってる」


 「分かってるよ。いや、そうじゃなくてさ。なんで俺の部屋で炬燵に入ってるの?って聞いてるんだけど。もっと言えばね、どうして俺の部屋の俺の炬燵で俺のみかんを食べながら俺のコーラ飲んでるのって聞いてるの」


 「あー、これお前のだったんだ。どうりで、なんかこじんまりとした炬燵だと思った」


 「失礼極まりないな。みかん喰ってるし」


 「みかんがね、俺に食べてって言ってたの。だからしょうがなく食べた」


 「そんなわけないじゃん。ついに頭打ったの?それともネジ外れた?」


 「このシュワシュワしたやつ、飲みにくいから、全部シュワシュワ出しておいた」


 「何それ。折角の炭酸から炭酸を抜いたの?どういうこと?理解出来ないんだけど、炭酸抜いた炭酸って何?それは炭酸ではないよね?要するにただの味のついた飲み物じゃん」


 「平和だなー。今日は寒いなー」


 「寒いけどさ、まだ炬燵の季節じゃないじゃん。もう出してたのは俺だけど」


 「いや、炬燵はいつ入っても幸せだよ。なんたって、心も身体もほっかほかだから。ここに温かい喰いもんでもあったらもっと良いな」


 「催促してきたし」


 「雨ってやだなー、俺の髪うねうねしてくるんだもん。それに日向ぼっこも出来ないし。本当に嫌だな、雨」


 「最近降ってなかったからね。たまにはこんな日も悪くないと思うよ」


 「え?俺って癒しキャラ?」


 「誰もそんなこと言ってないからね。いい加減にしないと、その耳ちょんぎっちゃうからね」


 「じとじとするー。じめじめするー。猫っていいなー。いつもこんな感じなんでしょ?犬なら外に放り出されるけど、猫なら家の中にいても何も言われないもんね。良い御身分だなこんちくしょう」


 「猫になんの恨みがあるのさ。あれ?遵平、いつも持ってる本は?」


 「雨に濡れたから、乾かしてる」


 「どこで?」


 「炬燵の中で」


 「蒸れるわ。すぐ出しなよ」


 「大丈夫だって。俺、太陽の力と炬燵の力は信じてるから。これまじで。なんでも出来るから大丈夫」


 「何も大丈夫じゃないんだけど。何その自信。太陽の力はともかくとして、炬燵の力は今は信じちゃダメだよ」


 「大丈夫だって。ほら、その証拠に」


 もそもそと動き出すと、遵平は炬燵の中に腕を入れ、そこから本を取り出した。


 「じゃじゃーん。もうこんなに乾いて・・・」


 自信たっぷりに仄に見せたのは良かったが、自分の手で触っているその本は、乾いてはいなかった。


 むしろ、温く濡れていた。


 「ほらね。だから言ったじゃん」


 「なんでだろうね。この世の中には不思議なことが沢山あるね」


 「遵平って賢いの、馬鹿なの。どっちかにしてくれる」


 「もういいや。寝ようっと」


 「人の部屋でよくそこまで寛げるよね。ある意味天才肌かもしれない」


 「・・・・・・」


 「遵平?」


 すでに、遵平は寝ていた。


 子供のような寝顔に、仄は無理に起こすことも出来ず、布団を肩にかけてやるのだ。


 「まったく」


 そう言いながら、放りだされた温く湿った本を持ちあげると、ドライヤーを持ってきて少しずつ乾かして行く。


 そしてようやく乾くと、仄も炬燵に入ってのんびりしていた。


 しかし遵平同様眠くなってきてしまい、うとうとしているうちに寝てしまった。








 「ん?」


 目を開けると、そこにはもう遵平も本もなかった。


 「帰ったのかな?」


 本当に自由な奴だと思ってカーテンを開ければ、すでに晴れていた。


 お日様が見えて外に出たのだろうと思い、伸びをしてから外に出ようとした仄だが、玄関に行くと靴が見当たらなかった。


 「あれ?」


 何処を探してもなくて、しょうがないもう一度炬燵に入ってのんびりしようとしたとき、足に何かが当たる。


 「・・・・・・」


 嫌な予感しかしなかったが、仄は思い切って布団を捲った。


 そこには、自分の濡れたびしょびしょの靴の残骸が、ぐったりと横たわっていた。


 「・・・・・・」


 仄は灰になったように動かなくなり、ようやく意識を取り戻したのは、半日経ってからだったそうだ。








 その頃、乾いた本を読んでいた遵平は、呑気にこんなことを言っていた。


 「やっぱり炬燵で乾いたねー」



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