第59話 えっ、千本鳥居って名前なのに千本じゃないんだ

 修学旅行の2日目となった今日、ホテルを出発した俺達は京都市内を3人で観光していた。今日は1日自由行動の日となっているため何をするのも自由だ。


「やっぱり伏見稲荷は人がめちゃくちゃ多いな」


「うん、流石京都の人気観光地ナンバーワンに選ばれただけの事はあるね」


「涼也、お姉ちゃん、早く行こう」


 表情はいつも通りだがややテンションが高めな様子の里緒奈に促されて俺と玲緒奈は大鳥居をくぐって神社の中へと進み始める。

 稲荷という名前がついているだけあって境内のあちこちに狐の像があった。俺達は手水舎で手を清めた後、早速本堂でお参りをする。

 ちなみに本殿の右隣の神楽殿では,運が良ければご神事で巫女さんの舞や神楽の演奏を見ることができるらしい。まあ、今回はタイミングが悪かったため見る事が出来なかったが。


「玲緒奈と里緒奈は何を願ったんだ?」


「それは秘密」


「うん、人に言ったら叶わなくなるかもしれないからね」


 2人が何を願ったのか気になったが教えてくれなかった。お参りを済ませた後はいよいよお待ちかねの千本鳥居へと向かい始める。


「やっぱり伏見稲荷と言ったらこの景色だよね」


「うん、これを見たかったから来たと言っても過言ではない」


 鳥居のトンネルの前に到着すると玲緒奈と里緒奈は人の邪魔にならないように注意をしながら写真を撮り始めた。 

 伏見稲荷に来るのは初めてだが、確かに思わず写真を撮りたくなる気持ちもよく分かる。この景色はそれだけ圧巻だった。


「よし、写真もこのくらいにしてそろそろ行こうよ」


「ああ、先もまだまだ長そうだし進もう」


「この先の景色も楽しみ」


 俺達は2列ある鳥居のトンネルの右側を歩き始める。それから道なりに進むと何か建物が見えてきた。


「あの建物は一体何だ?」


「あれは奥社奉拝所って呼ばれる場所、いわゆる奥の院」


「へー、やっぱり里緒奈は物知りだね」


「来る前にしっかり予習したから」


 感心した玲緒奈の声を聞いた里緒奈は少し得意そうな表情をしている。


「あっ、なんかあっちに変わったものがあるぞ」


「えっと何々……おもかる石?」


 俺の言葉に反応した玲緒奈が看板に書かれていた名前を読み上げた。一体どんなご利益があるのかなと考えていると里緒奈が解説をしてくれる。


「おもかる石は石灯籠の上に乗った丸い石を、願い事をしながら持ち上げて、予想していたより軽ければ願い事が叶うと言われてる」


「へー、そうなのか」


「せっかくだし私達もやってみようよ」


 石なのだから普通は重いと思うが、おもかる石という名前がついているくらいなのだから案外軽い可能性も考えられる。

 そんな事を思いながら持ち上げる俺だったが、めちゃくちゃ重かった。まるで石灯籠にくっ付いているのでは無いかと思うくらいの重さだ。


「……いやいや、全然軽くないじゃん。これ軽いって感じる奴いるのかよ」


「か、軽いね」


「嘘ついても意味ない」


 玲緒奈は軽いふりをしようとしていたが、表情で明らかにバレバレだった。多分相当なマッチョで無ければ願いが叶わないに違いない。

 奥社奉拝所まで来て引き返す人達もそれなりに多いらしいが俺達はせっかくなので先へと進み始める。


「そう言えば千本鳥居って名前だけどさ、実際は何本くらいあるんだろうね?」


「名前的に千本以上は絶対ありそうなイメージがあるけど、確かに気になるな」


「千本鳥居は約八百本って言われてる」


 俺と玲緒奈が疑問を口にしているとすぐに里緒奈が答えてくれた。


「えっ、千本鳥居って名前なのに千本じゃないんだ」


「千本鳥居の千本は正確な数じゃ無くて数え切れないくらいたくさんあるからその名前になった」


「なるほど、そういう意味で名前が付けられたのか」


 確かに昔は千という数字をとにかく多いという意味で使っていたと聞いた事があるので納得だ。しばらく3人で歩き続けて疲れてきた頃、休憩所が目に入った。


「流石に疲れてきたし、あそこでちょっと休憩しよう」


「うん、そうだね。里緒奈もぐったりしちゃってるし」


 俺達は早速3人で休憩所の中へと立ち寄り、そこで休憩をかねた昼ごはんを取る事にする。


「生き返るな」


「うん、めちゃくちゃ喉も乾いてお腹も空いてたから元気百倍って感じだよ」


「美味しい」


 俺達は親子丼ときつねうどんを食べながらそんな会話をしていた。ホテルで朝ごはんをしっかり食べてきたはずだったが、ここまでお腹が空いたという事はよっぽど疲れていたのだろう。


「頂上まで登った後は事前に話してた通り嵐山に行きたいと思ってるんだけど、涼也君と里緒奈は大丈夫?」


「ああ、大丈夫」


「それでいい」


「オッケー、じゃあ伏見稲荷から嵐山に行くルートを調べないとね」


 玲緒奈はスマホの地図アプリで伏見稲荷から嵐山への移動ルートを調べ始めた。まだ伏見稲荷の頂上にも到着していないというのにちょっと気が早すぎるのではないだろうか。

 まあ、玲緒奈も里緒奈も嵐山には行きたがっていたのでそれだけ楽しみなのかもしれない。

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