第58話 もしかして私と里緒奈の事を誘ってる?

「涼也君、遊びにきてあげたよ」


「お邪魔します」


「いやいや、玲緒奈も里緒奈も何考えてるんだよ!?」


 一日目の日程を終えて旅館の部屋でくつろいでいた俺の元へ玲緒奈と里緒奈が当たり前のような顔をしてやってきた。

 扉をノックされたため教師が巡回で部屋に回ってきたのかと思って何も考えずに開けたのが失敗だったに違いない。

 ちなみに男女ともに部屋の行き来は禁止されている。過去の修学旅行中に一線を超えた男女がいた事が理由だとか。

 だからバレたら教師陣から大目玉を食う事はほぼ確実であり、下手をすれば俺達のせいで学年集会が開かれるかもしれない。幸いな事に同室のメンバーは俺以外風呂に行っているため、今ならバレる前に2人を追い返せる。


「誰かに見られたらマジで不味いから早く出て行ってくれ」


「えー、別にいいじゃん」


「ちょっとくらいならバレない」


 何とか追い返そうとする俺だったが、玲緒奈も里緒奈も出ていきそうな気配は無い。どうしようか考え始めていると部屋の外から話し声と足音が聞こえてくる。


「いい湯だったな」


「やっぱ旅館と言えば大浴場だろ」


「だな、広いお風呂は最高だ」


 その声は間違いなく同室のメンバー達のものだ。まだしばらく戻ってこないと思っていたため完全に油断していた。


「やばい、2人ともとりあえず一旦押入れの中に入って隠れてくれ」


 俺は押入れのふすま開けると玲緒奈と里緒奈を大急ぎで中に押し込む。そして閉めようとするわけだが玲緒奈から腕を掴まれてふすまを閉められない。そのため仕方なく俺も一緒に押入れの中に入った。


「なあ、俺まで押入れに入ったら出るタイミングが分からないと思うんだけど……?」


「ごめんごめん、ついうっかり涼也君の腕を掴んじゃった」


「お姉ちゃんに悪気はないと思う……多分」


 絶対悪気しかない気はするがもはや突っ込みを入れる気にすらならなかった。押入れの中で俺達3人は完全に密着するような体制になっており、玲緒奈と里緒奈の胸などが思いっきり当たっている。

 そのせいで俺の下半身は思いっきり勃起しており非常に不味い状況だ。


「涼也君の硬いのがお腹に思いっきり当たってるんだけど」


「生理現象だから許してくれ」


「やっぱり涼也もしっかり男の子」


 既に2人とは体の関係を持っているが、恥ずかしいものは恥ずかしかった。


「……それでこれからどうするんだ?」


「うーん、どうしようか」


 部屋の中には風呂から戻ってきた同室のメンバー達がいるため迂闊に出られない。俺を押入れに引き摺り込んだ玲緒奈には何か名案があるのではと期待したが、特に考え無しだった。

 一応就寝前に食堂に全員集合して教師から連絡事項を受ける事になっているためその時に脱出できる。だが言うまでもなくまだしばらく先だ。


「……そう言えば八神がいないけど、あいつは一体どこに行ったんだ?」


「多分風呂とかじゃね? それか剣城さん達とどこかで遊んでるとか」


 ようやく俺が部屋にいない事に気付いたらしい。


「涼也、良かったね。いない事に気付いて貰えた」


「うん、今までのことを考えたらすごい進歩だよ」


「玲緒奈と里緒奈のせいで学内での存在感は明らかに増したからな」


 後夜祭のステージで玲緒奈と里緒奈が俺と付き合い始めた宣言を堂々としたせいで学内ではちょっとした有名人になってしまった。それにより影の薄いぼっちから影の濃いぼっちにランクアップを果たしたのだ。

 それからしばらく3人で密着したまま押入れの中で過ごす俺達だったが、中々脱出できそうなチャンスは巡ってこない。だんだん背中が蒸れてきて痒くなってきた俺は右手を伸ばそうとする。


「涼也のエッチ」


「ご、ごめん」


 どうやら里緒奈の胸に手が思いっきり当たってしまったらしい。今度は左手を動かそうとすると玲緒奈の下半身に当たってしまう。


「……涼也君、中々大胆だね。もしかして私と里緒奈の事を誘ってる?」


「わ、わざとじゃないからな。てかこんな状況で誘うわけないだろ」


「こんな状況じゃなかったら涼也は誘ってくれるの?」


「……今のは言葉の綾だから突っ込まないでくれ」


 俺は自由に体を動かす事が出来ず下半身も相変わらず元気なままのためかなり苦痛だというのに、玲緒奈と里緒奈はそんな軽口を叩けるくらい元気だった。


「もういっその事堂々とここから出るか? 俺だけ出て何か適当な理由を作ってあいつらを部屋から追い出せば玲緒奈と里緒奈が安全に出られると思うけど」


「それは絶対怪しまれると思う。それに涼也君が長時間押入れに入っていた理由はどう説明するの?」


「そうなんだよ、そこをどう言い訳するかが正直めちゃくちゃ難しいし」


 やはり堂々とここから出ていく事は現実的では無い。


「あいつらが全員部屋から出て行ってくれたら楽なんだけど」


「そう都合良くは行かない」


「やっぱそうだよな……」


 3人であれこれ知恵を出し合ったが良い方法は出てこず、結局就寝前の集合時間になるまで押入れの中で過ごすはめになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る