第53話 私とお姉ちゃんは双子だから考えそうな事は何となく分かる

 学園祭初日に色々な事があり過ぎたため身構える俺だったが、2日目に関しては特に何事も無く終了していた。


「……玲緒奈と里緒奈、どう見てもいつも通りだったよな?」


 そう、あんな事があった翌日だというのに2人は不自然なほどいつも通りだったのだ。ディープキスの件や誤解されてもいいという言葉の件を尋ねても、彼女達は口を揃えて後夜祭の時に全てが分かると繰り返すだけでそれ以上何も教えてくれなかった。


「一体後夜祭の時に何が起こるんだ……?」


 学園祭の3日間は基本的に強制参加なわけだが、後夜祭に関してだけは例外となっている。だからぼっちの俺は去年参加せずに帰っていたため、そもそも何をするのかよく分かっていない。


「今日の夜になれば答えが分かるんだろうけど、気になって仕方がないな」


 そのせいで昨日の夜は全く眠れず、完全に寝不足気味だ。これから玲緒奈と二人三脚の予定だが、果たしてこんなコンディションのまま走って大丈夫だろうか。

 そんな事を思いながらその場で軽く準備運動をしていると、にこやかな表情を浮かべた玲緒奈がやってくる。


「涼也君、絶対2人で1位を取ろうね」


「……頑張ろうぜ」


 気になる事は色々とあるが、とりあえず今は目前に控えた二人三脚に集中しなければならない。それから俺達はグラウンドの端っこで最終調整を始める。

 玲緒奈と密着するとディープキスの事を思い出してしまうため二人三脚の練習に全く身が入らなかったわけだが、それとは裏腹に俺と玲緒奈の息はピッタリだった。

 いや、正確には玲緒奈が俺に動きを完璧に合わせて息がピッタリになるようにコントロールしているというべきだろうか。

 他人に動きを合わせるなんてめちゃくちゃ難易度が高い事だと思うのだが、玲緒奈はそれを平気な顔でやってのけているから本当に凄い。


「時間だし、そろそろ行こうか」


「うん、私達の相性の良さを皆んなに見せつけよう」


 それから俺達は誘導に従って二人三脚のスタート位置に着く。そしてピストルの音と同時に玲緒奈と一緒に走り始める。

 二人三脚はクラス対抗のためグラウンドには俺達を含めて10組いるわけだが、その中でも俺と玲緒奈のペアが断トツで早かった。

 あっという間にグラウンド半周を走り終え、後少しでゴールというタイミングで問題が起こる。なんと玲緒奈が突然バランスを崩して転びそうになってしまったのだ。


「危ない!?」


 しまったという表情になった玲緒奈は地面に激突しそうになるが、俺は咄嗟に横から包み込むように体を抱きしめ、何とか転ぶのを阻止した。

 その代わりに紐が思いっきりほどけてしまったため、結び直す時間を考えると残念ながら最下位はほぼ確定だ。


「涼也君、ごめんね。私のせいで紐がほどけちゃって……」


「気にするな、玲緒奈が怪我しなくて良かったよ。それより気を取り直して走ろう」


 悔しそうな表情を浮かべている玲緒奈を俺はそう励ました。すると玲緒奈はちょっとだけ明るい表情になって口を開く。


「ありがとう、最後まで私達の連携プレイを皆んなに見せつけようね」


「ああ、今度は転ばないように落ち着いていこう」


 俺達は紐を結び直すと再び2人で走り始める。一緒に走っていた他のクラスの選手達は既にゴールしているため今グラウンドを走っているのは俺達だけだ。

 だが周りからは頑張れという応援の声がたくさん聞こえてきており、恥ずかしさは全く感じていない。そして無事にゴールした俺達は拍手で迎えられ、学校中の注目を集めた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「お姉ちゃん、わざと転ぼうとしてた」


「あっ、やっぱり里緒奈にはバレてたか」


「私とお姉ちゃんは双子だから考えそうな事は何となく分かる」


 里緒奈の言う通り私は二人三脚中にわざとバランスを崩した。私も里緒奈と同じように涼也君から皆んなの前で抱きしめられたかったのだ。

 里緒奈がトリックアートの床の上でバランスを崩して涼也君に抱きしめさせたのと全く同じ事を私はやった。

 そんな事をやった理由は全校生徒と保護者の前で涼也君から抱きしめて貰いたかったからだ。計画通りになったため今の私が上機嫌な事は言うまでもない。


「最初の頃は私達と涼也君が一緒にいると周りから凄い目で見られてたけど、最近は受け入れられてきてるから良い傾向だよね」


「外堀もだいぶ埋まったから今まで頑張ってきたかいがあった」


 もう土台作りはほぼ完了したと言えるため、今日の夜の後夜祭で次のステップに進むつもりだ。私達の最終目標である涼也君を私達だけのものにする事にこれで大きな一歩を踏みだせる。

 まだまだ懸念事項は色々とあるが、その辺はまたおいおい考えれば良いだろう。とにかく今日の夜、私達姉妹と涼也君の関係が決定的に変わる事だけは確かだ。


「後夜祭が待ち遠しい、早く夜にならないかな」


「うん、もう待ちきれそうにない」


 里緒奈は他人にはちょっと見せられないような妖艶な表情を浮かべていた。恐らく私も同じような表情になっているに違いない。

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