第54話 今回の学園祭で私とお姉ちゃんに彼氏ができたからこの場を借りてみんなに報告する

 ついに学園祭最後のイベントである後夜祭の時間がやってきた。最近はそもそも後夜祭が存在しない学校も多いらしいが、なぜかうちは未だに実施している。

 後夜祭は体育館と校庭の2つを使って開催され、体育館でステージ発表を行い、校庭では最後の締めとしてキャンプファイヤーの周りでダンスを行うようだ。

 去年は参加せずに家に帰ってソシャゲのダンジョン周回をやっていたため、具体的にどんな内容なのかはよく分からない。


「それにしても玲緒奈と里緒奈はいつ出てくるんだ?」


 俺は体育館の床に座ってステージ発表を見ながらそんな事をつぶやいた。今日のステージ発表には玲緒奈と里緒奈も参加するらしいが、何をするつもりだろうか。

 現在スポットライトで照らされたステージ上では軽音部がバンドを行なっているが、それが気になり過ぎて全く頭に入ってこなかった。


「そこで俺の知りたがってた事の答えが分かるって言ってたけど……」


 そんな事を思っているうちにバンドの演奏は終了となり、次のステージ発表の準備が始まる。


「へー、普段言えないような事を皆んなの前で叫ぶのか」


 これから何が始まるのかと思っていた俺だったが、司会の説明を聞いて理解する事ができた。参加者は事前に募集した有志らしいが、一体何を叫ぶというのだろうか。

 それから参加者達は次々にステージの上で普段言えない事を叫び始める。その内容は親友への感謝や今まで隠していた秘密、特定の誰かに対する謝罪など本当に様々だった。


「あっ、玲緒奈と里緒奈だ。やっぱり2人とも大人気だな」


 2人がステージ上に出てきただけで体育館の中が熱気に包まれたほどだ。2人は舞台袖からスポットライトで照らされた中央へと移動する。


「今回の学園祭で私とお姉ちゃんに彼氏ができたからこの場を借りてみんなに報告する」


 里緒奈が設置されたマイクの前でそう喋った瞬間、大きなざわめきが起こった。学校のアイドル的な存在の2人がそんな事を言い始めたら驚くなという方が無理なはずだ。

 俺はというと絶望的な気分になっていた。俺の事が好きかもしれないと思っていたが、それは大きな勘違いだったようだ。

 玲緒奈がキスしてきたり、里緒奈が抱きついてきたりしたのも何かの駆け引きだったのだろう。きっと俺は玲緒奈と里緒奈の恋を成就させるために都合よく利用されていたに違いない。


「……こんな答えなら知りたくなかった」


 2人から仲良くされて今まで勝手に浮かれていた俺が馬鹿だった。体育館の中は相変わらず騒がしかったが、もはやどうでもいい。

 もしこれがアニメや小説ならば間違いなく胸糞悪いバッドエンドだ。見終わった後に視聴者や読者がインターネットの匿名掲示板スレを荒らす未来しか見えない。

 全てに絶望した俺が体育館から出ようとしていると、キーンという嫌な音が大音量で流れる。それによって辺りが一気に静まり返った。

 玲緒奈がマイクの前で何かやっていた姿が目に入ったため、わざとハウリングさせたのかもしれない。静まり返った事を確認した2人はゆっくりと口を開く。


「剣城玲緒奈と」


「剣城里緒奈は」


 そこまで言い終わった玲緒奈と里緒奈は一緒黙り込んだ後、2人で顔を見合わせるとマイクへ向かって同時に話し始める。


「「八神涼也と付き合う事になりました」」


「……えっ!?」


 俺は自分の耳を疑った。八神涼也と付き合う事になったと聞こえた気がするが、そもそも俺は玲緒奈と里緒奈とは付き合っていない。もしかしてこの学校には他にも八神涼也という名前の人物がいるのだろうか。


「せっかくだし、涼也君からも一言を貰おうか」


「涼也、そこから動かないで」


 玲緒奈と里緒奈はマイクを持ったままステージから降りると、体育館の出口にいた俺の方へ向かって歩いてくる。そして状況が全く分からずに困惑している俺に里緒奈がマイクを手渡す。


「はい、じゃあ一言」


「え、えっと……」


 当然ながら話す内容なんて考えていないため何も話せず固まっていると、玲緒奈は意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「昨日の打ち合わせの時はこの場で私と里緒奈の事を一生守ると宣言するって言ってたけど、緊張し過ぎて上手く話せないみたいだね」


 さらっと凄まじい嘘をつく玲緒奈に俺は全く着いていけそうになかった。打ち合わせどころかそもそも付き合ってすらいないはずだ。

 てか、それってもはやプロポーズの言葉にしか聞こえないんだけど。ひょっとして俺に対するドッキリかとも思ったが、いつまで経ってもネタばらしが始まらないため違うようだ。


「涼也と私達姉妹の事をこれからも応援よろしく」


 里緒奈が言葉を言い終わった途端、大きな拍手が起こった。体育館内は完全に俺達への祝福ムードになっているが、俺は相変わらず何も分からないままな事は言うまでもない。

 とりあえず1つだけ確実に言える事としては俺が玲緒奈と里緒奈の2人と付き合っていると学校中に認識されてしまった事だ。これから俺の学校生活は一体どうなってしまうのだろうか。

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