第52話 今の言葉の意味は後夜祭の時に教える

 玲緒奈から公開ディープキスをされるという予想外のハプニングはあったが、何とか演劇も終わったため俺はしばらく適当にどこかで過ごそうと考えていた。

 明日の合唱コンテストまでは自由なため、学校の敷地から出る事さえしなければ基本的にどこで何をしても良いのだ。メイク落としと着替えを終えた俺は、一旦荷物を置くために更衣室を出て教室へと向かう。

 玲緒奈が俺の事を好きなのかもしれないという件についても落ち着いて考える時間が欲しかったため、荷物を置いた後はとりあえず静かで涼しい図書館にでも行こうか。

 そんな事を考えているうちに教室へと到着したわけだが、そこには里緒奈の姿があった。俺の存在に気付いた里緒奈はいつものクールな表情で話しかけてくる。


「涼也、演劇お疲れ様」


「ありがとう、玲緒奈のせいで色々大変だったけどな」


「涼也とお姉ちゃんがキスした瞬間、観客席の方はちょっとした騒ぎになってた」


 かなりざわざわしているとは思っていたが、やはりそんな事になっていたようだ。


「ところで涼也はこの後って暇?」


「ああ、もう演劇も終わったから特に予定とかは無いけど……」


「じゃあ私と学校を一緒に回ろう」


 なるほど、里緒奈は俺を誘うためにわざわざこの教室まで来たらしい。本当は1人になりたい気分ではあったが、せっかく誘われたのを断るのも申し訳ない。だから俺は里緒奈と一緒に学校を回る事にした。


「それでどこに行く?」


「1年生のクラス展示を色々見て回りたい」


「オッケー」


 里緒奈の言葉に対して特に異論もなかったため早速1年生の教室へと向かい、それから俺達は1組から順番にクラス展示を見始める。

 ちなみにパンフレットによると段ボール迷路や射的のような文化祭ではお馴染みの展示に加えて、トリックアートルームやバルーンプールのような珍しいものもあるため退屈する事は無さそうだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「今回も私の勝ち」


「……相変わらずめちゃくちゃ強いな」


 さっきまで射的をしていた俺達だったが以前の夏祭りの時と同様で里緒奈があまりにも強すぎたため手も足も出なかった。今回に関しては俺に好きな命令をできる権利を景品にはしていなかったのでそこだけが救いだ。


「じゃあ最後に10組の展示に行こう」


「今度はトリックアートルームか」


 パンフレットによると教室全体が目の錯覚を利用したトリックアートルームとなっているらしい。クラス展示の中でこれが一番気になっていたため今から楽しみだ。

 10組の前に到着した俺達は受付で名前を書いて教室へと入っていく。中に入ると本当に歪んだようにしか見えない床や、立体的すぎて今にも襲いかかってきそうなライオンのイラストなど本格的なトリックアートが広がっていた。


「めちゃくちゃ本格的だな、本当に床が歪んでるように見える」


「これは想像してた以上」


 はっきり言って素人の高校生が作ったとは思えないほどのクオリティだったため、俺も里緒奈もかなり驚いている。

 目の錯覚だと分かっていても思わず触って確かめたくなるほどだった。これは間違いなく作るのがかなり大変だったに違いない。


「涼也、ちょっとライオンの前に座ってみて」


「分かった」


 里緒奈が何をやろうとしているかを一瞬で理解した俺は言う通りにする。すると里緒奈はスマホでパシャパシャと写真を撮り始めた。


「見て、涼也がライオンに食べられそうになってる写真が撮れた」


「マジでそういう状況にしか見えないから凄いよな」


「今度は私も撮って欲しい」


 床やライオン以外にもトリックアートはあったため、俺と里緒奈は面白い写真をお互いに撮りあって楽しんだ。

 しばらくトリックアートを堪能して満足した俺達は教室から出ようとするわけだが、ここでトラブルが発生してしまう。


「きゃっ!?」


 なんと里緒奈が歪んだ床の上でバランスを崩して転びそうになってしまったのだ。歪んだ床は本当にそれだけリアルだった。だが咄嗟に俺が抱き止めたおかげで大事には至ってない。


「大丈夫か?」


「涼也のおかげで助かった、ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言い終わった俺は里緒奈の体から離れようとする。だがなぜか里緒奈は俺の背中にガッツリ手を回して離してくれなかった。


「……あの、里緒奈さん? そろそろ離したいんだけど」


「駄目、もう少しこのままがいい」


「いやいや、誤解される可能性があるから」


 教室内は割と混雑していて大人数から思いっきり見られているため色々と不味い。そんな事を思っていると里緒奈はとんでもない事を言い始める。


「私は別に誤解されてもいい」


「お、おい。それってどういう意味だよ!?」


 もしかして里緒奈は俺の事が好きなのだろうか。突然の事に理解が追いつかない俺は完全にパニックを起こす寸前だった。


「今の言葉の意味は後夜祭の時に教える」


 そう言い残した後、里緒奈はようやく体から離れてくれた。学園祭3日目が終了した夜に後夜祭が行われるわけだが、そこで俺は一体何を知る事になるのだろうか。

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【お知らせ】

本作の更新頻度ですが、10月に受ける宅地建物取引士の勉強を本格的に始める関係で著しく低下します。

今後は週1〜2回程度の更新になりますが、完結させる予定なのでお付き合いいただければと思います。

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