第48話 急に褒めてくるのは卑怯

 後期補習が始まってから初めての土曜日がやってきた。久々の休みなため起床するのも昨日より遅めだ。

 ここ数日間は学園祭の準備やらで忙しかったため、今日は一日中適当にダラダラして過ごす予定となっている。時間を無駄にしてる感が半端ないが、たまにはそういう日があっても良いはずだ。


「……そろそろ朝飯にするか」


 起きてからもしばらくベッドに寝転んだままスマホでネットサーフィンをしていた俺だったが、お腹も減ったためそろそろ起き上がる事にしよう。

 ダイニングへと向かい冷蔵庫の中に入っていたヨーグルトを食べているとポケットに入れていたスマホが振動する。画面を見ると里緒奈からLIMEのメッセージが来ていた。


「今日は私に一日付き合って欲しいってめちゃくちゃ大雑把だな」


 内容を確認した俺は思わずそうつぶやいてしまった。まあ今日はどうせ何の予定も入っていないわけだし、里緒奈に付き合う事にする。


「それにしても付き合って欲しいって事は、ひょっとして今日は里緒奈1人かな?」


 返信を考えている最中にそんな事が気になり始めたため、ついでにメッセージで聞いてみる事にした。里緒奈にメッセージを送ると一瞬で既読となり、すぐにメッセージが返ってくる。


「……なるほど、玲緒奈は用事で一日中いないのか。それで俺を暇つぶしに付き合わせようとしてるってわけだな」


 友達では無く俺なんかに声をかけてきた事がちょっとだけ不思議だったが、美少女と一緒に過ごせて悪い気はしないため何も問題は無い。

 里緒奈と出かける事が決まったため、とりあえず食事を終えて洗面所で顔を洗い寝癖を直す。そしてパジャマから服に着替えた後、財布とスマホを入れたカバンを持って里緒奈の家へと向かい始める。

 今日も外は暑かったため里緒奈の家へ着く頃には体中汗だらけになっていた。いつものようにインターホンを押すと今日はいつもと違う声がスピーカーから返ってくる。


「はい、剣城です」


「おはようございます、八神です」


「あら、涼也君だったのね。すぐ開けるわ」


 扉を開けて外に出て来たのは玲緒奈と里緒奈の母親であるエレンさんだった。いつも思う事だが40歳を超えているとは思えないほど綺麗だ。

 今の俺と変わらないくらいの年齢の頃はさそがし美少女だったに違いない。そんな事を思っているとエレンさんが口を開く。


「じゃあ里緒奈を呼んでくるわ、ちょっとだけ待ってて」


「分かりました」


 そのまま玄関で少し待っていると里緒奈がやってきた。今日は青いワンピースと麦わら帽子を身に付けている。


「涼也、おはよう」


「おはよう、里緒奈。今日の格好凄く良いな、めちゃくちゃ似合ってる」


 見た瞬間に感じた正直な気持ちを伝えた。すると里緒奈のトレードマークとも言えるクールな表情が崩れる。


「急に褒めてくるのは卑怯」


「ごめんごめん、つい本音が漏れた。それで今日は何をする予定なんだ?」


「今日は一日中付き合って貰う予定だから色々する、とりあえずムーンライトシティへ行くから」


 ムーンライトシティは池袋駅の東側にある複合商業施設だ。映画館やショッピングセンター、プラネタリウムなどが色々な施設が揃っていて、一日中遊べる場所となっている。


「オッケー、じゃあ早速行こう」


「うん、出発」


 それから俺と里緒奈はバスと電車を乗り継いで今日の目的地であるムーンライトシティへと向かう。

 里緒奈と一緒にいると相変わらず周りにいた男性達からの視線が凄かったが、もはや慣れてしまったため何とも思わなくなっている。


「着いたらまずは映画館に行きたい、実は見たい映画がある」


「へー、ちなみにどんな作品か聞いてもいいか?」


 基本的にどんなジャンルでも問題は無いが、BLなどは苦手なため一応聞いておく事にした。


「ちょっと前に公開が始まったアニメ映画。お姉ちゃんが友達と一緒に見て面白かったって言ってたから私も見たかった」


「あれか、確かに今人気だもんな」


 確かフェイズワンのクレーンゲームで玲緒奈が取ろうとしていた景品もこの映画のグッズだったはずだ。実は俺も見たいと思っていた映画だったため反対する理由は無かった。

 そして2人で電車に揺られているうちに池袋駅へと着いたため、東側の出口を出てムーンライトシティを目指して歩く。


「そう言えば里緒奈のクラスは演劇は何をするんだ?」


「うちのクラスはオリジナルのストーリーを考える事になった」


「なるほどな」


 オリジナルのストーリーを使った演劇は既存の物語を使うよりも明らかに難易度が高いため、台本を考える人には頑張って貰いたい。


「お姉ちゃんのクラスの演劇は涼也が白雪姫役って聞いたけど、今はどんな感じ?」


「一応練習とかはしてるけど、何とも言えない感じだな」


 女装は意外と似合っているらしいが、声が完全に男な事は致命的すぎた。声に関してはクラスメイト達からもかなり不評だったため、恐らく裏から代わりに誰かが喋る形になりそうだ。

 2人でそんな雑談をしながら歩いているうちにムーンライトシティの入り口へと到着した。

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★1500に到達しました、皆様本当にありがとうございます‼︎

外伝のリクエストとして寄せられたストーリーを本音を言えば全部書きたいところですが、作者の時間が無いため今回は3つに絞ります。


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