第47話 どう答えるのが正解なんだよ……
後期補習が始まってから今日で2日が経過した。ホームルームで決めなければならない事も全て決まり、いよいよ学園祭の本格的な準備期間となっている。
「……それにしても今日は暑いな」
学園祭3日目に行われる体育の部の練習をするためにグラウンドへ出てきたわけだが、外が暑いせいでまだ何もしていないというのにもう既に体中汗まみれになっていた。
8月の暑い時期に外で練習をするのは正直中々きつい。練習が始まるまで日陰に座っていると誰かが隣にやってくる。
顔を上げるとそこにはタオルを首にかけた玲緒奈が立っていた。彼女も暑いらしく汗をかいていて、色白の肌がピンク色に染まっている。
「涼也君、やっほー」
「……誰かと思ったら玲緒奈か」
「クラスで涼也君なんかに話しかける物好きは基本的に私しかいないんだから、私以外あり得ないよ」
さらっとめちゃくちゃ酷い事を言われたような気はするが、暑過ぎて気にするような余裕なんて無い。
「それよりこの後はよろしく」
「分かってるよ、今更嫌とは言えないしな」
昨日のホームルームの際に体育の部で出場する競技を決めたわけだが、俺は玲緒奈と二人三脚へ出る事になってしまった。
本当は楽な競技に出場したかったのだが、玲緒奈が俺と二人三脚に出場したいなどと大声で言い始めたせいでその計画は狂ってしまったのだ。
一応拒否する事も考えたが、空気的にとても断れそうな雰囲気では無かったため嫌とは言えなかった。
「私達の連携プレイをクラスの皆んなに見せつけようね」
「……ああ、頑張ろう」
めちゃくちゃノリノリな玲緒奈に対して俺は若干引き気味だったが、やると決めた以上は頑張るつもりだ。
それから一緒に二人三脚の練習を始める俺達だったが、結構ギクシャクするかもしれないという俺の勝手な予想は外れ、初めてとは思えないほど上手くいっていた。俺と玲緒奈の相性は思っていた以上に良いのかもしれない。
「これなら二人三脚で優勝が狙えるかも」
「だな、せっかくなら2人で1位を取ろう」
今日の練習では俺達がぶっちぎりで速かったため、狙える可能性は十分あると思う。そんな俺と玲緒奈の様子を周りにいたクラスメイト達が驚いたような顔で見ていた事は言うまでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
練習の終了時間となったためグランドの後片付けを始めた。出場する競技ごとに別れて練習をしていたが、後片付けに関しては全員で協力して行なう。
「これで最後みたい」
「やっと終わりか」
俺は玲緒奈は最後まで残っていたカラーコーンを回収してグランドの端にある体育倉庫の奥に運んでいる。
「楽しかったけど結構疲れた」
「調子に乗って2人で走り過ぎた感はあるな」
2人でそんな会話をしながら体育倉庫から出ようとしていると入り口の方からバタンという重い扉の閉まる音とガチャっという鍵がかかるような音が聞こえてきた。
「ひょっとして私達、閉じ込められたんじゃ……?」
嫌な予感がしたため慌てて開けようとする俺達だったが、どれだけ頑張っても目の前の扉は開きそうにない。
「……おいおいマジか」
「私達が中にいる事を一切確認せずに鍵を締めたみたい」
どうやら俺達は体育倉庫の中へ閉じ込められてしまったらしい。しばらく玲緒奈と一緒に何とか外へ出る方法がないか探してはみたが、残念ながら何も見つからなかった。
「誰か俺達がいない事に気付いてくれればいいんだけど」
「とりあえず私達がいつまで経っても靴箱に現れなかったら里緒奈が気付いてくれると思う。でも体育倉庫に閉じ込められてるって発想がすぐ出るかどうかは微妙な気がするな」
「そっか、下手したらしばらくはこのままか。なら助けが来るのを気長に待つしか無いかも」
無駄な抵抗を諦めた俺は近くに置かれていたマットへと座る。練習で疲れていたためそろそろ落ち着きたかったのだ。
「へー、思ったよりも柔らかいな」
「本当だ、こんなに柔らかかったんだ」
俺の隣に腰掛けた玲緒奈も同じような感想を抱いたらしい。体育用のマットを使う機会なんてほとんど無いため、触れるのは本当に久しぶりだ。
「それにしても玲緒奈と2人きりっていうのはかなり珍しい気がする」
「確かにそうだよね、いつもは里緒奈が一緒だしさ」
基本的に玲緒奈と里緒奈は一緒に行動をしているため、どちらかと2人きりになる状況はかなり珍しかった。
「あっ、2人きりだからって私にエッチな事しようとしちゃ駄目だよ」
「いやいや、そんな事するわけないだろ」
玲緒奈とエッチな事をしたくないと言えば嘘になるが、手を出すような勇気なんて俺にはとても無い。
「……そんなに否定されるのもなんか傷付くんだけど」
「どう答えるのが正解なんだよ……」
里緒奈が少し不満そうな顔になった様子を見て俺は思わずそうつぶやいた。童貞の俺に女心を理解するのは難しすぎる。
それからしばらく適当な雑談をする俺達だったが、1時間ほどが過ぎた辺りでようやく外から体育倉庫の鍵を回すような音が聞こえてきた。
「やっと誰か気付いてくれたみたいだね」
「これでようやく帰れるな」
俺と玲緒奈はマットから立ちあがろうとする。だが長時間座りっぱなしだったせいか玲緒奈がバランスを崩して倒れそうになってしまう。
「危ない!?」
俺は咄嗟に玲緒奈の手を掴むが体重を支えきれず、そのまま2人揃ってマットの方へと倒れてしまった。
「いたたっ……涼也君大丈夫?」
「ああ、下がマットなおかげで助かった」
もしコンクリートの床に倒れていたらかなり痛かったに違いない。そんな事を思っていると体育倉庫の扉が開かれ、里緒奈が中に入ってきた。
「心配して探してたのに涼也とお姉ちゃんは何をやってるの……?」
里緒奈が呆れたような顔で開口一番にそう口にしたのを聞いて、俺は自分がどんな体勢になっているかにようやく気付く。
恐らく里緒奈の目には玲緒奈が俺を押し倒しているような姿に見えているに違いない。俺と玲緒奈の位置が逆じゃなかっただけまだマシだが、今の格好は色々不味かった。
結局、里緒奈の誤解を解くまでに結構な時間がかかってしまった事は言うまでもない。
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