第46話 ちょっと涼也君に絡んだだけじゃん
玲緒奈と里緒奈から腕を組まれるという羞恥プレイを受けた後、教室に到着した俺はイヤホンをつけて音楽を聞きながら適当に時間を潰す。
以前机に突っ伏してうとうとしていた時に玲緒奈から耳に息を吹きかけられた事があったため、その対策として寝ない事にしていた。
しばらくするとチャイムが鳴り、補習がスタートする。授業時間が違う事以外は基本的に普段と同じため、正直めちゃくちゃ面倒だった。
だが授業についていけなくなるともれなく退学の危機を迎える事になるので、決して手を抜く事はできない。
しばらくして全ての補習が終わった後、昼休みとなったため俺は席を立っていつも通りベストプレイスへ向かおうとする。
「涼也君待って、もしかして私を置いて行くつもり?」
「……あの、玲緒奈さん? 今俺達めちゃくちゃ目立ってるんだけど」
玲緒奈が大きな声を出したせいでクラス中の視線が俺達に集まってしまった。確かに夏休み前から一緒に昼食を食べていたが、以前は別々に教室を出ていたはずだ。
「気にしない気にしない、それより涼也君に今日のお弁当を渡しておくね。勿論今まで通り私と里緒奈の手作りだから」
「……ひょっとしてまさかわざとやってる?」
堂々と大きな声でそんな事を言ってくれたせいで、俺が玲緒奈と里緒奈からお弁当を作って貰っていることがクラス中に知れ渡ってしまった。
一部のクラスメイト達からは嫉妬のような視線を向けられてるため、教室内の居心地がめちゃくちゃ悪い。
「や、やだなー。そんな事ないよ」
「うん、わざとって事だけはよく分かった」
思わずそうツッコミを入れてしまうほどにはわざとらしかった。ひょっとして玲緒奈は俺の平穏な学校生活を破壊する気なのだろうか。
「……とりあえず行くぞ」
「うん、行こう」
これ以上はクラスメイト達からの視線の圧に耐えられそうにない。俺達は急ぎ足で教室から出て行った。それからベストプレイスへ先に来ていた里緒奈と合流してお弁当を食べ始める。
「涼也とお姉ちゃん、来るのがちょっと遅かったけど何かあった?」
「玲緒奈のせいで酷い目にあってたんだよ」
「えー、人聞き悪いな。ちょっと涼也君に絡んだだけじゃん」
玲緒奈の中ではあれがちょっとらしい。ちょっとの意味を辞書で調べてこいと言いたくなるレベルだったが、もはや突っ込む気にすらなれなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特にトラブル無く3人で仲良く昼休みを過ごした後、学園祭に関するホームルームの時間がやってきた。
今日と明日はホームルームで決めなければならない事を話し合い、明後日から本格的な準備に取り掛かる流れになっている。
今日のホームルームの議題は学園祭のクラスリーダー選出と演劇の題材についてだ。クラスリーダーになれば内申点がかなり加算されるため推薦を狙っているであろうクラスメイト達数人が立候補していた。
「受験勉強するのが面倒だから推薦狙いたいけど、ぼっちの俺にクラスリーダーとか務まるわけないんだよな……」
そういうのはコミュニケーション能力抜群でカリスマ性がある奴の役割だ。ちなみにその条件を満たしている玲緒奈は去年クラスリーダーになっていたため今回は立候補しないと昼休み話していた。
「クラスリーダーが誰になっても正直興味ないし、演劇もどうせ裏方とかをやるに決まってるから別に何でも良いんだよな」
そのため真面目に今日のホームルームに参加する気になんてなれない。だから俺は学園祭の話し合いなんか完全にそっちのけでソシャゲのダンジョン周回について考え始める。
挙手を求められる場面では適当に手を挙げていたが、どうせ俺の1票に大した影響力なんてないはずだ。
そんな事をしているとだんだん眠くなってきた。夏休み期間中は結構自堕落な生活をしていたため、体に悪影響が出ているのかもしれない。
「今日は朝も早かったし、マジで眠い」
現在クラスでは先程決まったクラスリーダー主導で演劇の題材についての話し合いが行われているようだが、俺は眠たすぎて正直それどころでは無かった。眠気と必死に戦う俺だったが、生理現象には勝てなかったらしい。
俺はいつの間にか寝てしまっており、目覚めた時にはちょうどホームルームが終わるタイミングになっていた。黒板に白雪姫という文字がデカデカと書かれていたのを見て、無事演劇の題材が決定した事を知る。
「そっか、演劇は白雪姫をする事になったのか」
オリジナルのストーリーを考えたいという難易度が高そうな意見も出ていたが、結局無難なところに落ち着いたらしい。
「あっ、涼也君。やっと起きたんだ」
ホームルームも終わったため帰る準備をしているとちょっと呆れたような顔をした玲緒奈が話しかけてきた。
「気付いたら寝てた」
「これから大変だと思うけど頑張ってね」
「……それってどういう意味だ?」
言葉の意味が分からなかったため俺がそう聞き返すと玲緒奈は黒板の左半分を指差す。そこには演劇の配役が書かれていた。
メインキャラクターを演じなければならない人は大変だなと他人事のように思いながら見ていた俺だったが、白雪姫の配役を見た瞬間完全に固まる。
「えっ、配役に八神涼也って書かれてるんだけど!?」
はっきり言って全く意味が分からなかった。なぜ白雪姫を男の俺が演じなければならないのだろうか。
「白雪姫と王子様だけがどうしても決まらなかったから私が面白半分で涼也君を白雪姫役に推薦したんだ。そしたら多数決で採用になっちゃった」
「おいおい、何してくれてんだよ……」
悪ふざけをするならせめて王子様の方にして欲しかった。まあ、王子様も俺のキャラではないため絶対に嫌だが。
「流石に罪悪感を感じたから王子様役には私がなったよ。だから一緒に頑張ろうね」
「……憂鬱だ」
これからの事を考えると気が重くなった俺は力無い声で静かにそうつぶやく事しか出来なかった。
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