学園祭・修学旅行編
第45話 現実から逃げちゃ駄目だよ
今日はついに夏休みの実質的な終了を意味する夏後期補習の開始日だ。久々の学校という事で昨晩は早く寝たため、朝もかなり早く目覚めてしまった。
時計を見た俺は一瞬二度寝しようかなとも考えたが、流石に補習初日から寝坊して遅刻するのはまずい。
一応補習という名前ではあるが普通に授業を進めるため、スタートダッシュから躓いてしまう可能性がある。
そうなれば再び退学の危機を迎える可能性があるため、それだけは何としてでも避けたい。だから俺は二度寝を諦めてベッドから起き上がった。
そしてとりあえず朝食を摂るためにダイニングへ向かっていると憂鬱そうな表情を浮かべた澪と廊下で遭遇する。
「お兄ちゃん、おはよう。こんな時間に起きるなんて珍しいね」
「おはよう、昨日は結構早く寝たからな。それより朝からめちゃくちゃ暗い表情をしてるけど一体どうした?」
澪が憂鬱そうな顔をしている理由はなんとなく察しはつくがあえて聞いてみた。すると澪は低めのテンションで口を開く。
「今日から後期補習が始まるからに決まってるじゃん。中学生までと比べたら夏休みが短過ぎる……」
中学生までは夏休みと言えば40日近くあったわけだが、高校生になってからは実質的にその半分くらいしかない。
「まあ、うちの学校は進学校だからな。あっ、そうそう3年生は入試対策とか模試で夏休みが更に半分くらいになるらしいぞ」
「えっ、ここからまだ減るの!? 朝から嫌な話を聞いたせいでテンションだだ下がりなんだけど」
そんな話をしながら歩いているうちにダイニングへ到着したため、俺と澪はトースターで食パンを焼いて食べ始める。
「……そう言えば補習の後って学園祭の準備だよね?」
「そうそう、強制参加だからマジでダルいよな」
俺達の学校の学園祭は文化祭に相当する文化の部が2日間、体育祭に相当する体育の部が1日間の計3日間開催されるわけだが、この準備が中々面倒なのだ。
クラスメイト達と協力して準備をしなければならないため、俺のようなぼっちにとっては苦痛な時間でしかない。
去年もぼっちだったせいで俺にだけ情報が上手く伝達されず色々と酷い目にあった事は今でもしっかり覚えている。
合唱の練習やクラスリレーの練習場所がいつの間にか変更になっていたにも関わらず、情報共有されていなかったせいで元の場所で待ちぼうけして大恥をかいた事は本当にトラウマだ。
「そっか、色々憂鬱だな」
「まあ、お互い適当に頑張ろう」
「……適当に頑張ろうっていうのは流石にどうかと思うけどね」
澪からちょっと呆れられてしまったが、これが俺なのだから仕方がない。それから朝食を食べ終わった澪は一足先に家から出て行った。
クラスに友達がいる澪は朝から色々とあるのだろう。久々に会う友達もいるはずなので朝から夏休みの思い出話を語り合うのかもしれない。
ちなみに俺は玲緒奈以外まともに話せるクラスメイトがおらず早く学校へ行くメリットは何も無いため、もう少しだけゆっくりしてから家を出るつもりだ。しばらく俺はソシャゲのダンジョン周回をして過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「涼也、おはよう」
「じゃあ涼也君も来たことだし、そろそろ学校へ行こう」
玲緒奈と里緒奈を家まで迎えに行った俺は、そのまま3人で学校へと向かい始める。相変わらず周りからの俺達への視線は凄いが、夏休み期間は2人と一緒にいる事が多かったため慣れてきていた。
「今年の学園祭は2年生だから演劇しなきゃだね」
「ああ、小道具とか衣装の準備、台本作りとかがあるから絶対去年より準備が大変だよな」
1年生はクラス展示で2年生は演劇、3年生は創作ダンスをそれぞれ担当しているわけだが、正直2年生の演劇準備が一番面倒な気がする。
「補習明けにテストもあるから結構忙しい」
「そっか、そう言えばそんなのもあったな」
里緒奈の言葉を聞いてテストの存在を思い出した。夏休み宿題から出題される課題テストもガッツリ成績に関わるため決して油断はできない。
「なんか学校行くのがめちゃくちゃ面倒になってきたな、正直今すぐ帰ってもう1回寝たい」
「その気持ちも分からなくはないけど、現実から逃げちゃ駄目だよ」
「もし涼也が逃げる気なら絶対に捕まえる」
俺のつぶやきに対して玲緒奈と里緒奈はそうツッコミをいれてきた。まあ、初めから逃げる気なんてサラサラ無いため心配は無用だ。
てか、里緒奈に追いかけられたら逃げられる気がしない。俺を捕まえるためなら地の果てまで追いかけてきそうだ。
そんな会話をしながら歩いているうちに学校の前へと到着した。2人と一緒にいると悪目立ちする可能性が高いためトイレを口実に逃げようとする。
だがそんな事はお見通しだったらしく逃がしてくれない。それどころか左右から強引に腕を組んできたため、死ぬほど目立っている。
「……おいおい、勘弁してくれよ」
満足そうな表情を浮かべている玲緒奈と里緒奈に対して、俺は静かにそうつぶやく事しかできなかった。
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