第42話 ほら、これで満足だろ
いよいよ週末となり約束していた夏祭りの日となったため、俺達は約束していた通り4人で会場を歩き回っている。
カラフルな浴衣を着た美少女を3人もはべらせている俺に対してすれ違う男性達から嫉妬のような視線を向けられているわけだが、正直立場を変わってもらえるのであればぜひ今すぐにでも変わって欲しいと思っていた。
なぜなら澪が玲緒奈と里緒奈に敵意を向けているせいで、雰囲気がかなりギスギスしているからだ。しかも玲緒奈と里緒奈も澪に対して結構好戦的なため、空気が良くなりそうな気配は全く無い。
俺がせっかく一緒に夏祭りに来てるんだから仲良くして欲しいと言った事で、3人は一応表面上仲良く振る舞うようになってはいたが、水面下で戦いが繰り広げられている事は火を見るより明らかだ。
「お兄ちゃんには私みたいに背が低い女の子がお似合いだと思うんですよね、やっぱり背が高いとバランスが悪いと思うので」
「そうかな、私達みたいに背が高い女の子ならハグしやすかったり、服とかを共有できるからその方が涼也君は嬉しいと思うけどね」
「背が低いより高い方がスタイルも良く見えるし、涼也も喜ぶ」
今もこうやって遠回しに煽りあっているため、とにかく胃がめちゃくちゃ痛かった。ちなみに俺は平均身長くらいの女の子が好きだ。
だから150cmの澪も165cmの玲緒奈と里緒奈も好みからは少し外れている。そのため正直この争いをいくら続けたところで何の意味もない。
だが下手に口を挟むと新たな火種を作ってしまう可能性があるため発言には注意しなければならないと言える。
ただでさえ爆弾をいくつも抱えているというのに、さらにそこへ燃料を投下するような真似をしてしまえば収拾がつかなくなる未来しか見えない、
「……そう言えばまだ来てから何も食べてないよな、いつも通り屋台もいっぱい出てるし何か食べようぜ」
「確かに結構お腹空いてきたし、お兄ちゃんの言う通りにしましょう」
「そうだね、何食べようかな……」
「色々あるから正直迷う」
俺の言葉を聞いた彼女達はとりあえず賛成してくれた。多分3人ともお腹が空いていたに違いない。何か食べればきっと機嫌も少しはよくなるはずだ。
「私はたこ焼きね、お兄ちゃん」
「うーん、今は焼き鳥の気分かな」
「涼也、私は焼きそばが食べたい」
3人はそれぞれ食べたい物を口にした。俺はフランクフルトが食べたかったため見事に全員バラバラだったが、これで大人しくなってくれるなら万々歳だ。それから各自食べたい物を購入し、近くのベンチに座って食べ始める。
「はい、お兄ちゃん。あーん」
「うん、美味しい。ありがとう」
フランクフルトを食べ終わった俺が考え事をしていると澪からたこ焼きを差し出されたため、何も考えずにパクりと食べた。
俺と澪は兄妹であり、こんな事は昔からよくやっていたため今更抵抗なんて一切無い。だがそんな俺と澪のやり取りを見ていた玲緒奈と里緒奈の機嫌が明らかに悪くなってしまう。
「ちょっと口を開けてくれないかな?」
「涼也、あーん」
2人は立ち上がってこちらに詰め寄ると、なんと手に持っていた焼き鳥と焼きそばを強引に俺の口へとねじ込んできたのだ。
「と、突然口に突っ込んでくるのは辞めろよ」
「どうしても涼也に食べさせたかった」
「ごめんごめん、でも美味しかったでしょ?」
抗議する俺だったが玲緒奈と里緒奈は全く悪びれた様子もなくそんな言葉を口にしたため、多分注意したところで意味なんて無いに違いない。
「お兄ちゃん、まだ食べられるよね」
「いやいや、澪の食べる分がなくなるから1個で十分なんだけど」
「世界でたった1人の兄妹なんだし、遠慮しなくてもいいよ。あーん」
今の行動を見て澪が対抗心を燃やしてしまったらしく、追加でたこ焼きを持った割り箸口の前に伸ばしてくきた。すると玲緒奈と里緒奈も焼き鳥と焼きそばを同じように差し出してくる。
「私とお姉ちゃんの焼き鳥と焼きそばの方が絶対美味しい」
「涼也君、こっちにしようよ」
3人が激しく見えない火花を散らしあってる中、俺はただでさえ痛かった胃がさらに痛くなってしまい苦しんでいた。
澪を選んだら玲緒奈と里緒奈が不機嫌になるのは目に見えている。かと言って玲緒奈と里緒奈を選んだ場合も澪が怒る事は容易に想像がついてしまう。
つまりどちらを選んだとしてもろくな未来が待っていないのだ。どうすればこの修羅場を無事乗り越える事ができるか考えた俺は、全部同時に食べる事にした。
澪と里緒奈の差し出していた割り箸を手から奪い取り、そのまま玲緒奈が伸ばしていた焼き鳥の串と一緒に口を大きく開けてかじりつく。
「ほら、これで満足だろ。俺はもうお腹いっぱいになったからこれ以上は絶対に何も食べないぞ」
俺が全力で拒絶する姿勢を見せると流石に3人とも諦めたらしく、自分の分を大人しく食べ始めた。ただし食べている間も玲緒奈と里緒奈は澪と遠回しに煽りあっていたため、俺の心が全く休まらなかった事は言うまでも無い。
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