第41話 剣城先輩達が優しいって、ちょっとお兄ちゃんそれ本気で言ってるの?
「あれ、涼也君じゃん。まさかこんなところで会うなんて奇遇だね」
「……えっ、2人ともなんでここにいるんだ!?」
「お姉ちゃんが突然水族館に行きたいって言い始めたから来た」
アクアランド水族館の中で私と里緒奈は涼也君達に偶然会ったふりをして話しかけていた。
驚いたような顔をしている涼也君に対して、その隣にいた彼の妹は不機嫌そうな顔をしている。
だが不機嫌になっているのは私と里緒奈も同じだ。2人きりの夏祭りを邪魔した時点で何かしら動きがあるとは思っていたが、まさかこんなにも早く行動を起こすとは私も里緒奈も思ってなかった。
涼也君が外出準備をしている様子を監視カメラで見た時も、どうせコンビニにでも行くのだろうと思い込んでしまうほどには油断をしていたのだ。
だから涼也君のスマホにインストールしていた遠隔監視アプリの位置情報を見るまでアクアランド水族館に行っているだなんて夢にも思ってなかった。
涼也君の妹に完全に出し抜かれてしまった事に気付いた私達は慌てて外出の準備をして、今に至るというわけだ。
「せっかくだから私達と一緒に4人でアクアランド水族館を回らない?」
「剣城先輩達には申し訳ないですけど、今日の夜は私とお兄ちゃんの兄妹水入らずの時間なので邪魔しないでください」
里緒奈からの提案に対して涼也君の妹はバッサリと断ってきた。まあ彼女が断ってくる事は最初から分かりきっていたため特に問題は無い。
だって涼也君さえこっちの味方にしてしまえば何の問題も無いのだから。そんな事を思いながら私は口を開く。
「一緒に回った方が絶対楽しいよ、涼也君もそう思わない?」
「……2人とも本当にごめん、悪いけど今回は澪優先だから一緒には回れない。それにもう俺達は館内をほぼ全部回ってイルカショーまで見終わってるから、そもそも一緒に回る意味も無いと思うんだよな」
「私とお兄ちゃんはお土産売り場を適当にぶらぶらしてから帰るつもりなので、剣城先輩達は勝手に2人で楽しんできてください」
涼也君達の返事を聞いて私達は言葉に詰まる。もう既に涼也君達が館内をほとんど見終わっているなら一緒に回るという作戦は使えそうにない。
かと言って今来たばかりの私達がほとんど館内を見ずに涼也君達と一緒に帰るのも明らかに不自然だ。やはり油断して出遅れてしまった事は私達にとって大きな痛手になっているらしい。
「じゃあ私達はもう行きますね、さよなら」
「痛い痛い、あんまり腕を強く引っ張るなよ……2人ともまたな」
私達は涼也君が強引に右手を引っ張られながら連れて行かれる後ろ姿を黙って見る事しか出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
玲緒奈と里緒奈に別れを告げた後、俺達はお土産売り場に来ている。お菓子やぬいぐるみ、キーホルダーなど様々な種類のお土産が売られていた。
やはり水族館という事もあって魚をモチーフにしたお土産が中心だ。2人でお土産売り場をぶらぶらしている中、俺はちょっと前から気になっていた事を澪に質問する。
「……なあ、澪は何で玲緒奈と里緒奈をそんなに目の敵にしてるんだ?」
「そんなの剣城先輩達が私の大切なものを横取りしようとしてるからに決まってるよ」
「澪の大切なものを横取りしようとしてる? 優しい2人がそんな事するイメージは全く無いんだけど」
澪の大切なものが一体何なのかは考えても分からなかったが、彼女達がそんな事をするとはとても思えなかった。すると澪は驚いたような、それと同時にどこか呆れたような顔で口を開く。
「剣城先輩達が優しいって、ちょっとお兄ちゃんそれ本気で言ってるの?」
「ああ、割と本気だけど……何か変か?」
玲緒奈と里緒奈は結構強引なところはあるし、時々怖い事もあるが基本的には優しい。そもそもぼっちの俺なんかを相手にしてくれてる時点で優しくない訳がないのだ。
「お兄ちゃんは絶対剣城先輩達から騙されてると思う、私にはめちゃくちゃ腹黒い女狐にしか見えないもん。はっきり言って私的には裏で何か犯罪に手を染めてても違和感ないくらいだから」
「うーん、そうかな……?」
思い返してみれば確かに腹黒いと感じるような場面も多少あった気はするが、全体から見ればほんの僅かでしかない。
「とにかくあの2人には注意した方がいいよ、もしかしたら何か取り返しが付かない事になるかもしれないしさ」
「……澪がそこまで言うなら頭の片隅には入れておく事にするよ」
全く知らない他人の言葉であれば聞き入れる気にはならなかったが、たった1人の妹である澪の言葉なのだ。多分注意する必要なんて無いとは思うが、一応覚えておこう。
「じゃあそろそろこの話しは終わりにしよう、お土産見るのに集中したいから。分かってるとは思うけどお兄ちゃんはしっかりと荷物持ちをよろしくね」
「オッケー、任せろ。澪が満足するまで付き合ってやるよ」
それから俺達は澪の気が済むまでお土産売り場を見て周り、たくさん買い物をしてから家に帰るのだった。
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