第40話 勿論お兄ちゃんには拒否権なんて無いからね

 スイーツバイキングから帰った俺は夏祭りに玲緒奈と里緒奈も参加する事になったと澪に話したわけだが、案の定ブチギレられてしまった。

 まあ俺と2人で行こうと前々から約束していたにも関わらずこんな事になったのだから怒るのも無理は無いだろう。

 だから俺はひたすら澪に謝り続ける。しばらく誠心誠意謝り続けた結果、埋め合わせをする事を約束して何とか許してもらえた。

 ひとまず一件落着となったため、ほっと胸を撫でおろしながら自分の部屋に戻ろうとしていると澪から声をかけられる。


「お兄ちゃん、今すぐ外出する準備をしてきて」


「……えっ?」


「さっき埋め合わせしてくれるって言ってたじゃん」


「あっ、そういう事か。それなら全然大丈夫」


 その言葉を聞いて澪が今から俺に埋め合わせをさせようとしている事にようやく気付いて返事をした。

 だがもうすぐ夜になるというのに一体どこへ行く気なのだろうか。そんな事を思いながら自室で外出準備をする。そして玄関に向かうと先に準備を終えていた澪が待っていた。


「じゃあアクアランド水族館に行こう。あそこなら22時まで営業してるから今から行ってもゆっくり回れるだろうし」


「アクアランド水族館か……」


 港区にあるアクアランド水族館はお洒落でSNS映えする夜デートに人気なスポットの1つであるため、その時点でカップルが多そうな予感しかしない。


「勿論お兄ちゃんには拒否権なんて無いからね」


「そんなの言われなくても分かってるよ」


 俺達はそんな会話をしながら家を出発した。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「へー、色々な種類の魚がいるんだな」


「小さくてカラフルだし、可愛いよね」


 アクアランド水族館に一歩足を踏み入れるとサメやエイ、クラゲなど、色々な種類の海の生物が入った複数の水槽が俺達の目に飛び込んできた。


「あっ、お兄ちゃん。あっちにはウミガメがいるよ」


 かなりハイテンションな澪に連れられて俺はパンフレットの順番通りに色々な水槽を見始める。

 夏祭りの件を話した時はめちゃくちゃ怒っていたが、無事機嫌が直ってくれたみたいで本当に良かった。

 館内はそこそこ広いため全部見て回るには結構な時間がかかりそうだったが、どうせ明日も夏休みで特に予定も無いため問題は何も無い。

 しばらく2人でゆっくりと館内を見て回り、そろそろ夕食にしようかと俺が思い始めたタイミングで澪が何かを見つけたらしく駆け寄る。


「お兄ちゃん見て見て。ドクターフィッシュの水槽だって」


「本当だ、ドクターフィッシュって水族館にもいるんだな」


「ちょっと試してみようかな」


 そう言い終わった澪がドクターフィッシュの水槽の中に右手を突っ込むと、どんどん魚達が集まってきた。

 ドクターフィッシュは水中に人間が手足などを入れるとその表面の古い角質を食べるために集まって来る人間にとっては有り難い魚で、美容や健康に効果が有るらしい。


「全然痛く無いし、お兄ちゃんもやってみてよ」


「……本当だ、むしろくすぐったいくらいだな」


 俺達は2人でしばらく手を水槽の中に突っ込んでいた。それからレストランへと移動したわけだが、ちょうど夕食時という事でかなり混雑しており、席は全て埋まっている。


「館内に人が多いから予想はしてたけど、やっぱりレストランも多いね」


「夜とはいえ夏休み期間だからな。どうするこのまま待つか? 俺は別にどっちでもいいけど」


「多分時間を空けてもそんなに変わらない気がするし、このまま待とうよ」


 澪の意見を尊重して俺達はレストランの席が空くまで待つという選択肢を取る事にした。


「それにしてもやっぱり周りはカップルが多いな。兄妹で来てる俺達は浮いてそうな気しかしない件」


「別に私とお兄ちゃんが兄妹なんて見た目だけだと分からないだろうし、周りから見たら私達もカップルに見えそうな気はするけど?」


 澪がさらっととんでもない事を口走った姿を見て、俺は思わずツッコミを入れる。


「いやいや、カップルに見えるのは流石にまずいだろ」


「……もう、お兄ちゃんの馬鹿」


 なぜか澪は少し不機嫌になってしまった。それから澪の機嫌を直すために必死でなだめているうちに俺達の順番となり席に案内される。


「この後はどうする?」


「ちょうどイルカショーの時間が近いから、食べ終わったらそれに参加しようよ」


「分かった」


 それから2人で夕食を食べた俺達はパンフレットを見ながらイルカショーの会場目指す。会場に到着すると始まる直前となっており、観客席は多くの人で賑わっている。


「間に合って良かったね」


「ああ、せっかくなら全部見たいしな」


 空いていた席に座って少しの間待っていると、イルカショーがスタートした。

 始まると同時にイルカ達は勢いよく水面から飛び出し、空中にぶら下がったボールを弾く。

 続いて係員が差し出した輪っかをジャンプでくぐり抜け、さらに水面に投げ込まれたフラフープを器用にクチバシで回し始めたのだ。


「 へー、めちゃくちゃ器用じゃん」


「そうね、係員の人とも息がピッタリ」


 人を乗せたまま泳いだり、飛び跳ねて空中で回転したりと、イルカ達のパフォーマンスは最後まで会場を大きく盛り上げた。

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