第37話 ねえ、涼也君。ひょっとして私の胸見た?

「やっぱりプールの中は冷たくて気持ちいいな」


「うん、今日みたいな暑い日には最高だよね」


「来て良かった」


 準備体操をしてから水の中に入った俺達は、3人で泳いだり浮かんだりしながらしばらくプールを満喫していた。

 ちなみに東京サマーヒルズのプールは屋内と屋外に分かれており、8月の現在は屋外も開放されているためかなり広い。


「……そう言えばここのプールってウォータースライダーが2種類あるんだな」


「うん、大きいスライダーと小さいスライダーがあるね」


「せっかくだから両方滑りたい」


 ちなみに大きいスライダーよりも小さいスライダーの方がスピードが出るため、人によって好みが別れるらしい。


「ちょうど今あんまり並んでないみたいだしさ、小さいスライダーに行ってみない?」


「そうだな、ただ泳ぐだけなのも飽きてきてたところだし」


「私も賛成」


 玲緒奈の提案に俺も里緒奈も賛成したため一旦プールから上がり、3人で小さいスライダーへと向かい始める。


「滑る時に寝転ぶと結構スピードが出るらしいよ」


「へー、じゃあ俺は寝転ぼうかな」


「私は普通に滑る」


 スピード狂気質のある玲緒奈は絶対寝転んで滑るに違いない。そんな事を思いながら列に並んでいるうちに俺達の番がやってきた。


「よし行ってくる」


「いってらっしゃい」


「涼也の姿、上から見てる」


 まずは先頭に並んでいた俺からだ。俺は寝転んだまま勢いよくスタートする。玲緒奈の言っていた通りかなり早かったためあっという間に着水した。

 プールサイドに上がった俺は次に滑ってくる玲緒奈を下で待ち始める。そして予想通り寝転んで勢いよく滑ってくる玲緒奈を見守る俺だったが、着水のタイミングでとんでもないハプニングが起こってしまう。


「えっ、マジ!?」


 なんと玲緒奈が身につけていた赤いビキニの上半身部分がプールに着水した衝撃で運悪く外れてしまったのだ。

 自分の状況に気付いた玲緒奈は顔を真っ赤にしながら、かなり慌てた様子で水中に潜り外れたビキニを探し始めた。

 俺もすぐさまプールに入って玲緒奈のビキニを一緒に探す。不幸中の幸いですぐ見つかったため、俺は玲緒奈を見ないようにしながらビキニを手渡した。


「ねえ、涼也君。ひょっとして私の胸見た?」


「……見てない」


 本当はほんの少しだけ見えてしまったが、 変態というレッテルを貼られかねないため黙っておくつもりだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 あの後は特に何もトラブルは起こらず平和だった。ジャグジーやサウナなども含めて俺達はプールを満遍なく楽しんだのだ。


「……プールで遊び始めてから3時間も経ってるのか」


「本当にあっという間だった」


「それだけ楽しかったって事だよ」


 そんな事を話しながら俺達は大きいスライダーの列に並んでいる。最後にこれを滑り終えたら帰る予定だ。

 先程の教訓を踏まえて玲緒奈と里緒奈はビキニの紐をしっかりと固定しているらしいので、恐らく今度は何も起きないだろう。


「今度は私が最初に滑る。万が一またお姉ちゃんのビキニが取れたら今度は私が探すから」


「今度は大丈夫だって何回も言ってるじゃん。私ってそんなに信用ない?」


「お姉ちゃんは昔から同じ事を繰り返すところがあるから正直信用できない」


 里緒奈は玲緒奈の言い分をばっさりと一刀両断してしまった。そんな2人のやり取りを見て笑っていると、玲緒奈から睨まれてしまったため俺は慌てて目を逸らす。

 しばらく雑談をして待っている間に列はどんどん進んでいき、いよいよ俺達の順番が回ってきた。


「先に下で待ってる」


 そう言い残した里緒奈は大きいスライダーを滑り始める。寝転んでいなかった事もありスピードはあまり出ていない。少ししてから何事もなく着水した。


「じゃあ行ってくるね」


「今度はビキニが外れないようにな」


「もう、分かってるよ。涼也君の馬鹿」


 玲緒奈は先程の事を思い出したのか少し顔が赤い。それから寝転んで滑る玲緒奈だったが、幸いな事に何もアクシデントは起きなかった。

 玲緒奈が無事下に到着したのを確認した俺は係員の指示で滑り始める。今回もスピードを出す為に寝転んで滑る事にしたのだが、この選択は失敗だったと言える。


「やばい、足をつった!?」


 なんとウォータースライダーを滑っている最中に俺は盛大に右足をつってしまったのだ。

 さらに運の悪い事にウォータースライダーが着水した瞬間に左足もつってしまった俺は完全にパニックになってしまい見事に溺れてしまう。


「涼也!?」


「涼也君!?」


 結局俺は係員のお兄さんに助けられた後、里緒奈から人命救助のもと人前で唇を奪われた挙句、人工呼吸をされるという羞恥プレイをされるまで目覚めなかったらしい。

 里緒奈は学校で保健委員をやっていて、人工呼吸に関する実習も受けていた。だから人工呼吸の知識は豊富だったようだ。

 ちなみに人工呼吸が終わった後に里緒奈はちょっと名残惜しそうな顔をしていたと玲緒奈から後で教えてもらったが、それは聞かなかった事にしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る