第36話 それを悪く言う事だけは絶対に許さない
レストランで食事を終えた俺達はいよいよ今日の本命であるプールに入るため、券売機でチケットを買って受付を済ませてから更衣室に向かう。
「じゃあ水着に着替え終わったらプールの入り口で待ってるぞ」
「うん、涼也君また後でね」
「私達も水着に着替えたらすぐに行くから」
更衣室の前で別れた後、俺は男子更衣室に入ってカバンから取り出した水着に着替え始める。ちなみに更衣室の中もそれなりに混雑していたため空いているロッカーを探すのも一苦労だったと言える。
「結構みんな良い体してるな」
周りで着替えている人達の体が結構筋肉質だった様子を見て、俺は静かな声でそうつぶやいた。今の俺は167cm55kgとやや痩せ型の体型をしているため、周りと比べて見劣りしてしまう。
「……今のままだとかなり細いし、俺もトレーニングしてもう少し筋肉付けようかな」
ただでさえ身長が平均を下回っていてあまり高くないのだから筋肉を付けて体格を良くしておかないと舐められそうな気がする。
そんな事を考えながらシャワーを浴びてプールの入り口に向かう俺だったが、ゴーグルが無い事に気付いた。
「多分更衣室に忘れてきたな……面倒だけど取りに戻ろう」
2人はまだ来ていなかったため一旦更衣室へ取りに戻る。もしかしたらそもそも持ってきていない可能性もあったが、ちゃんとカバンの中に入っていた。
それから改めてプールの入り口に向かっていると、そこに近づくにつれて男女数人の争うような声が聞こえてくる。男性に関しては全く聞き覚えが無かったが、女性の方はよく聞き覚えがある声だった。
「だからさっきから一緒に来てる相手がいるって何回も言ってますよね。私もこの子もあなた達と遊ぶつもりは一切無いですから」
「いい加減しつこい」
「えー、いいじゃん。そんな奴ほっといて俺達と一緒に行こうよ、楽しませる自信があるからさ」
「そうだよ、君達みたいなめちゃくちゃ可愛い女の子を待たせるような男なんて絶対ろくな奴じゃないって」
なんと玲緒奈と里緒奈は大学生くらいに見えるチャラそうな男2人組からナンパされていたのだ。
2人組のガラはかなり悪く体格も良かったため正直かなり怖かったがここで逃げるなんてあり得ない。だから俺は勇気を振り絞って頑張って止めに入る。
「すみません、玲緒奈と里緒奈は俺の連れなのでナンパするのは辞めて貰っていいですか?」
「えっ、ひょっとしてまさか待ち合わせの相手ってこいつの事?」
「いやいや、こんなチビで冴えない奴と遊んでも絶対つまらないだろ。そんな地味な奴じゃなくてやっぱり俺達と一緒に遊ぼうぜ」
俺の姿を見た2人組はニヤニヤしながら好き放題言い始めた。間違い無く俺の事を見下しているに違いない。
まともに相手をしても無駄な事を悟った俺は玲緒奈と里緒奈の手を取ると無視してプールサイドへ行こうとする。だが2人組は俺達の前に立ち塞がって進路を妨害してきた。
「おいおい、勝手に行こうとするなよな……てか今気付いたけどお前背中マジで気持ち悪いな」
「うわ、本当だ。よく見たらなんか刺されたような跡あるじゃん、そんな汚いものを見せてくるなよ」
あろう事か例の事件で出来た背中の刺し傷を馬鹿にして笑い始めたのだ。その言葉には流石にかちんと来るが、俺が何か言う前に玲緒奈と里緒奈が2人組に詰め寄る。
「……ねえ、今なんて言いました? 涼也君の背中の傷を気持ち悪いとか汚いって言ったように聞こえた気がするんですけど」
「涼也の背中の傷は私達姉妹を守って出来たもの、それを悪く言う事だけは絶対に許さない」
彼女達の体からは凄まじい怒りのオーラが出ており、めちゃくちゃ迫力があった。小さな子供がみたら完全に泣き出しそうなレベルだ。玲緒奈と里緒奈の豹変っぷりに2人組は完全に萎縮していた。
空気に耐えられなくなってどこかへ立ち去ろうとする2人組だったが、騒ぎを聞きつけてやってきたプールの屈強な男性スタッフに取り押さえられたため、それは叶わなかったようだ。
そしてどこかへと連れて行かれたわけだが、恐らく怒られた後で出入り禁止を言い渡されて追い出されるに違いない。
「2人とも大丈夫だったか?」
「うん、私達は大丈夫だよ」
「涼也、ありがとう。助けようとしてくれて嬉しかった」
先程までとは打って変わって2人はいつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。さっきまで激しく怒り狂っていた彼女達とはまるで別人のようだ。
玲緒奈と里緒奈を怒らせると恐ろしい事がよく分かったため、絶対に怒らせないようにしようと強く心に誓った事は言うまでもない。
「いきなり大きなハプニングもあったけど、今度こそ3人でプールを楽しもう」
「うん、今日はいっぱい遊ぼうね」
「気を取り直してプールに入ろう」
俺達は3人並んでそのままゆっくりとプールサイドに歩き始める。さっきの一部始終は目立っていて結構多くの人に見られていたため俺達に絡んでこようとする物好きは流石にいなかった。
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