第35話 涼也君が私達を裏切るわけないもんね

「……よっしゃ、全部終わった」


「これで一安心だね」


「涼也もお姉ちゃんもお疲れ様」


 ここ数日間里緒奈の部屋で夏休みの宿題をやっていた俺達だったが、今日ついに終わらせる事ができた。


「1人でやってたら多分まだ半分も終わってなかったと思うしマジで助かった、ありがとう」


「どういたしまして」


「涼也の力になったなら良かった」


 そう話す玲緒奈と里緒奈もすっきりしたような顔をしているため夏休みの宿題を片付けられて嬉しいに違いない。


「それにしても思ったよりも早く終わったな」


 現在の時刻は12時前という事で、午後の時間がまるまる余った。とりあえず家に帰って適当に昼ごはんを食べてからソシャゲのダンジョン周回でもしようかなどと考えていると玲緒奈が何か思いついたらしく口を開く。


「あっ、そうだ。この後プール行かない?」


「冷たくて気持ちよさそうだから行きたい」


 玲緒奈からの提案を聞いた里緒奈は即座に賛成した。そう言えばプールなんてここ数年入ってない。そう思いつつ俺も賛成の声をあげる。


「確かに今日みたいな暑い日にはピッタリだよな、俺も行くよ」


「じゃあ決定だね。プールは東京サマーヒルズにしよう」


「東京サマーヒルズって確かガラス張りでドーム型のところだよな」


「そうそう、ここから割と近くて広いから良さそうと思って」


 俺の記憶が正しければウォータースライダーはもちろん、ジャグジーやリラクゼーションプール、サウナ、レストラン等があるため、1日中楽しめる施設だったはずだ。


「とりあえず水着とかを準備しないといけないし、俺は一旦家に取りに帰るわ」


「オッケー、涼也君が戻ってきたら出発しよう」


「その間に私とお姉ちゃんも準備する」


 俺は里緒奈の部屋を出て家に帰り始める。クーラーの効いた涼しい部屋を出て外に出るとめちゃくちゃ暑かったため家に着く頃には汗まみれになってしまった。

 洗面所で手を洗ってから自室へ行こうとしているとアイスを手に持った澪が廊下の向こうから歩いてくる。


「お兄ちゃん、おかえり。もう帰ってきたんだ」


「ただいま。ああ、夏休みの宿題が全部終わったからな」


「えっ、そうなの!?」


 澪は信じられないという顔で固まってしまった。まあ、去年俺が夏休み最終日半泣きになりながら宿題をやっていた姿を見ていたのだから驚くのも無理はないだろう。


「それで午後暇になったら玲緒奈達とプールへ行く事になったんだよ、だから水着を取りに戻ってきたってわけ」


「最近どんどん私の知ってるお兄ちゃんじゃ無くなっていってる気がするんだけど……」


 去年までの俺なら夏休みに女子と一緒に宿題をしたり遊びに行ったりする予定なんて絶対になかった。


「俺にも色々あるんだよ」


「ふーん。まあそれは良いとして、お兄ちゃん今週末の約束は覚えてる?」


「夏祭りだろ、毎年行ってるんだから勿論覚えてるよ」


 毎年子供の頃から2人で行っている夏祭りが今週末にあり、今年も澪と一緒に行く予定だ。


「今年も楽しみにしてるから」


 澪はそう言い残すとアイスを食べながら部屋に戻って行った。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 バスと電車を乗り継いで東京サマーヒルズに到着した俺達だったが、とりあえず泳ぐ前にレストランで昼食を食べる事にした。


「うーん、何食べよう?」


「泳ぐ前だから、あんまり油っぽいのとかは食べたくないよな」


「昼はあっさりしたものがいい」


 俺達はレストランに向かって歩きながらそんな事を話している。ちなみに夏休みという事もあって東京サマーヒルズの中は多くの人で溢れかえっていた。

 それからレストランの入り口に置いてあった客待ち名簿に名前を書いて少しの間待っていると、店員から席に案内される。

 メニュー表を見て何を食べるかしばらく考える俺達だったが、結局3人とも一番あっさりしてそうなざるそばを注文する事にした。


「そう言えば涼也君、私達とした約束ってちゃんと守ってくれてるよね?」


「約束……ああ、ひょっとしてこの間のプリクラの事か? それならちゃんと今も貼ってるよ」


 一瞬何の事かと思う俺だったが、すぐに何の事か気付いたためポケットからスマホを取り出して2人に証拠を見せつける。

 俺のスマホの背面にはフェイズワンで撮った左右から玲緒奈と里緒奈に抱きつかれて変顔をする俺のプリクラが貼ってあった。


「ちゃんと涼也が約束を守ってくれてて嬉しい」


「涼也君が私達を裏切るわけないもんね」


「と、当然だろ。2人と約束したからな」


 本当はそろそろ剥がそうかなと思っていた事は口が裂けても絶対に言えない。定期的にチェックするとは言っていたが、まさか本当にしてくるとは思わなかった。


「ちなみにもし勝手にプリクラを剥がしてたら涼也には恐ろしい罰が待ってたから」


「……ちなみにどんな?」


「それは秘密」


「うん、涼也君に教えたら面白く無いしさ」


 一体どんな罰が待っていたのか気にはなるが、どうせろくでもない事に決まっている。恥ずかしいがこのまま我慢するしかないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る