第38話 今日の約束は涼也のためにもうキャンセルした、だからそこは何も心配いらない

 東京サマーヒルズへ行った翌日、俺は朝目覚めた時から喉の痛みや咳、強い倦怠感に襲われていた。

 恐らく症状的に風邪をひいてしまったと考えた俺は起き上がると机の引き出しから体温計を引っ張り出して脇に挟む。


「……おいおい、38.2度もあるじゃん」


 体温計には平熱よりもかなり高い数字が表示されていたため、予想通り風邪で間違いなさそうだ。恐らく昨日のプールが原因に違いない。


「……出席日数がやばいから夏休み期間で本当良かった」


 例の事件で長期間入院していたため俺の出席日数はギリギリであり、もうほとんど学校を休む事が出来ないのだ。そのため今が夏休みでは無かったらかなり危なかったと言える。


「……あっ、そうだ。玲緒奈と里緒奈は大丈夫かな」


 一緒に遊んでいた2人が心配になってきた俺は大丈夫かどうか確認するためにLIMEで体調を聞く事にした。

 俺と玲緒奈、里緒奈の3人が参加しているグループにメッセージを送信した俺は救急箱から風邪薬と冷却シート、マスクを取り出す。

 それから部屋に戻ろうとしているとパジャマのポケットに入れていたスマホが着信音とともに激しく振動し始める。スマホの着信画面に表示された名前を見ると、電話は玲緒奈からだった。


「もしもし……」


「涼也君、体調は大丈夫?」


「声がいつもよりガラガラ」


 電話の向こうからは里緒奈の声も聞こえてくるためスピーカーモードで通話をしているのかもしれない。


「メッセージにも書いたけど今熱が38度以上あるからさ、正直結構辛いな」


「そっか、それは辛いね。じゃあ私と里緒奈で涼也君の看病を踏まえてしてあげる」


「準備して涼也の家に行くから少し待ってて」


 なんと2人はそんな事を言い出したのだ。美少女から看病されるというシチュエーションに昔から憧れはあったが、実際にそこまでさせるのは流石に申し訳ない。


「気持ちは嬉しいけど、風邪がうつるかもしれないから大丈夫……そもそも今日は友達と遊ぶ約束があるって昨日言ってなかったか?」


「でも確か今日家にいるのは涼也君だけだよね。1人だと色々大変だと思うし、放っておけないよ」


「今日の約束は涼也のためにもうキャンセルした、だからそこは何も心配いらない」


 玲緒奈と里緒奈は一歩も引こうとせず、あろう事か俺の看病をするために友達と遊ぶ約束をドタキャンまでしてしまったのだ。

 ここまでされて断るという選択肢など取れるはずがない。だから結局俺は2人に看病をしてもらう事にした。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 家にやってきた玲緒奈と里緒奈から看病をされる俺だったが、いつの間にか寝てしまっていたらしい。


「涼也君お待たせ。お粥できたよ」


「熱いからゆっくり食べて」


 目を覚ますと机の上に美味しそうなお粥が準備されていた。どうやら2人が俺のために作ってくれたようだ。


「マジで助かる」


 俺は机の上に置かれたお粥を食べるためにスプーンを手に取る。だが倦怠感が強いせいでスプーンがやけに重く、かなり食べづらかった。

 そんな俺の様子をしばらく見ていた玲緒奈と里緒奈は2人で顔を見合わせた後、とんでもない事を言い始める。


「……ねえ涼也君、私達がお粥を食べさせてあげようか?」


「いや、それは流石に……」


「遠慮はいらない」


 17歳にもなって食べさせてもらう事に抵抗のあった俺は断ろうとするが、彼女達はかなりノリノリの様子で迫ってきたのだ。

 こうなった2人を止める事がどれだけ難しいか今までの経験から分かりきっていたため受け入れざるを得なかった。


「……分かったよ、じゃあ食べさせて貰おうかな」


「素直でよろしい」


「涼也、口開けて」


 俺は里緒奈から差し出されたスプーンの上に乗ったお粥をぱくりと一口で食べる。


「うん、美味しい……けどまだちょっと食べるには熱いな」


「じゃあ次からはもう少し冷ます」


 そう言い終わると里緒奈はスプーンですくったお粥に対して、玲緒奈と一緒にフーフーと息を吹きかけ始めた。

 そんな2人の姿が妙に色っぽかったためついつい見惚れてしまう。気付けば下半身が元気になってしまっていた。

 幸い布団のおかげでまだ気付かれていないが、バレたら確実に変態扱いされるため何とか勃起を抑えなければならない。

 とりあえず素数を数えて落ち着く事にした俺は2、3、5、7、11、13 、17と順番に心の中でつぶやく。途中で分からなくなってしまったがとりあえず興奮が収まったため目的は達成できたと言える。


「そろそろ冷めたと思う」


「涼也、あーん」


 里緒奈から食べさせて貰ったお粥は冷めてちょうど食べやすい温度になっていた。そんなやり取りを何度か繰り返してお粥を完食した俺は玲緒奈から水と風邪薬を受け取る。


「じゃあ涼也君はこれを飲んで今日は安静にしててね。私達はそろそろ帰るから」


「無理は禁物、お大事に」


「ああ、2人とも今日はありがとう」


 彼女達が部屋から出ていくのを見届けた俺は天井を見ながらぼーっとし始め、次第に激しい睡魔に襲われてそのまま意識を手放した。

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