第31話 お、お化けなんて非科学的なものはこの世に存在しないから、私は全然平気
玲緒奈が元気を取り戻した後、ゴーカートや急流すべり、メリーゴーランドなどのアトラクションに乗っていた。
そこでは特にトラブルは一切起こらなかったため、問題は何も発生していない。そして次は玲緒奈の提案でお化け屋敷に来ていた。
「へー、中々雰囲気出てるね」
「だろ、外観はかなり凝ってると思う」
ここのお化け屋敷は北欧にある呪われた洋館という設定で、かなり不気味な見た目をしている。中から女性客の悲鳴が聞こえてきている事を考えると結構怖いらしい。
らしいという曖昧な表現をしているのは、ここのお化け屋敷に入ったのがかなり昔すぎて全く覚えていないからだ。
「……里緒奈、さっきからずっと黙り込んでるけど大丈夫か?」
「涼也君、実は里緒奈って昔からお化けが苦手なんだよ」
お化け屋敷に行くと決まった時から一言も喋らなくなってしまった里緒奈を心配した俺がそう声をかけると玲緒奈がそう教えてくれた。
てっきり里緒奈はお化けなんか全く怖くないタイプだと思っていたので正直意外だ。
「怖いなら無理しなくていいぞ、それなら玲緒奈と2人で行ってくるし」
「だ、大丈夫。お、お化けなんて非科学的なものはこの世に存在しないから、私は全然平気」
俺が声をかけると里緒奈はかなり早口でそんな事を話していたが、どう見ても大丈夫そうには見えなかった。
その後も同じような事を聞いたが、里緒奈は何度聞いても大丈夫としか答えなかったため、入るのを辞める気は無いらしい。
しばらくしていよいよ俺達の順番がやってきたためゆっくりとお化け屋敷に入る。中は非常に薄暗く不気味な雰囲気が漂っており、辺りからはうめき声のようなものが聞こえてきていた。
余裕そうな玲緒奈に対して里緒奈の顔には恐怖の感情が浮かんでおり、めちゃくちゃ怖がっているようだ。
「ね、ねえ涼也。そろそろ出口かな……?」
「いやいや、今入ったばっかりだろ」
「これだけで終わりだったら流石に短すぎるかな」
普段クールな里緒奈からは考えられないような姿にちょっとキュンとさせられた。これがいわゆるギャップ萌えという奴だろうか。
そんなやり取りをしている俺達だったが、突然眩しい光とともに雷の音が辺りに鳴り響いた。俺と玲緒奈は少し驚いた程度だったが、里緒奈には効果抜群だったらしい。
「きゃあぁぁぁぁ!」
里緒奈は悲鳴をあげて思いっきり抱きついてきたのだ。そして俺にくっついたまま離れなくなってしまった。
歩きにくくなってしまったが、胸を思いっきり押し当てられたためちょっと得した気分にもなっている。
そんな状態のまま進んでいくと胸にナイフが刺さった全身血まみれの女性が通路の脇に横たわっている姿が目に入ってきた。
「り、涼也。な、何も起きないよね……?」
里緒奈は震える声でそう尋ねてきたが、何の意味もなく設置しているとは思えないため何かしらが起こるに違いない。
そう告げようとするが残念ながら間に合わなかった。なんと女性はガバッと起き上がってきたのだ。
「いゃあぁぁぁぁ!」
大きな悲鳴をあげた里緒奈は俺の手を掴むと、進行方向に向かって走り出す。手をぐいぐい引っ張られて少し痛いくらいだ。
「あっ、ちょっと私を置いていかないでよ」
その場に1人残された玲緒奈は慌てて俺達を追いかけてきた。玲緒奈もこんなところで1人取り残されるのは流石に嫌だったらしい。
それからも行く先々で里緒奈は悲鳴をあげ、俺に抱きついたり、手を引っ張って逃げたり、逆に固まって動けなくなって俺と玲緒奈が手を引くなどを繰り返しながら進んでいった。
「おっ、ついに出口みたいだな」
「本当だ、結構長いお化け屋敷だったね」
「や、やっと外に出られる……」
ようやく出口の明かりが見えたため、里緒奈は安心したような表情になる。だがお化け屋敷は出口が見えて安心したところを脅かしてくるパターンが多いため、残念ながら気を抜くにはまだ早い。
予想していた通り天井から血まみれの生首が落下してきた。俺と玲緒奈は予想できていたが、里緒奈にとっては想定外だったようだ。
「もう無理いぃぃぃぃ!」
里緒奈は俺の手を思いっきり掴むと全力疾走を始めた。女性とは思えないくらい強い力で引っ張られたためよっぽど怖かったのだろう。腕を引っ張られたまま俺と里緒奈はお化け屋敷を飛び出した。
「怖かった……」
お化け屋敷の中で何度も驚いたり大きな悲鳴をあげた事が原因で里緒奈は息も絶え絶えな様子だ。
「だーから私を置いていかないでってば」
遅れてお化け屋敷から出てきた玲緒奈は肩で息をしながら里緒奈に対してそう声をかけていた。多分慌てて追いかけてきたのだろう。
「……そろそろ手を離してもらっていいか?」
「り、涼也ごめん」
お化け屋敷から出ても俺の手を握ったままだった事にようやく気付いた里緒奈は恥ずかしそうに顔を赤ながら手を離した。
手を離されてちょっとだけ名残惜しかったが、ずっと手を繋いだままの状態も恥ずかしかったため仕方がない。
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