第30話 調子に乗ってハンドルを回しすぎたな
一夜が明けた現在、俺達はおばあちゃんの家を出て倉敷ミラノ公園に来ていた。夏休み期間という事もあって園内はそれなりに人が多そうだ。
「じゃあ早速中に入ろうか」
「今日は3人でいっぱい遊ぼうね」
「テーマパークは何歳になってもワクワクする」
玲緒奈と里緒奈はまるで子供のようにテンションが高かった。ちなみにインターネットストアでアトラクション乗り放題の入場チケットを既に購入しているので、わざわざ窓口に並ぶ必要は無い。
プリントアウトしたチケットを見せて入場ゲートをくぐると大きな観覧車やジェットコースターなどが視界に入ってきた。
「どれから乗ろうかな」
「色々あるから正直迷う」
「とりあえずパンフレットを見ながら考えようぜ」
俺達はどのアトラクションに乗るかを話し始める。3人で話し合いをした結果、記念すべき最初のアトラクションはバイキングに決定した。
それから歩いてバイキングの前に到着した俺達だったが、視界にはかなり長い順番待ちの列が目に飛び込んでくる。
「バイキングも人気みたいだね」
「この感じだと結構待ちそうだな」
「やっぱり絶叫系はみんな好き」
ここへ来るときに前を通りかかったジェットコースターやウォーターライドも長蛇の列ができていたた事を考えると、やはり絶叫系は人気なようだ。
列の長さを見て俺達は乗るかどうか迷ったわけだが、せっかくなので待つ事にした。
「そう言えば夏休みが明けたらすぐに学園祭だよね」
「そっか、まだかなり先だと思ってたけどもうそんな時期か」
玲緒奈の言葉を聞いて学園祭が近い事に気付く。ちなみに俺達の学校の学園祭は文化祭に相当する文化の部が2日間、体育祭に相当する体育の部が1日間の計3日間開催される。
文化の部では、演劇やクラス展示、ステージ発表などを行い、体育の部ではリレーや綱引き、創作ダンスなどの競技を行うのだ。
ちなみに1年生はクラス展示、2年生は演劇、3年生は創作ダンスをそれぞれ担当し、チーム対抗で点数を競っていく。
「って事は去年みたいに放課後は学園祭の準備で潰れるよな」
「今年は演劇だから準備する事は去年より多い」
確かに里緒奈の言う通り衣装や小道具の作成、練習などでかなりの時間を使うに違いない。クラスメイト達と連携しなければいけないため、ぼっちの俺には辛い時間になりそうだ。
そんな雑談をしながらしばらく待っているうちに、いよいよ俺達の番がやってきた。
安全バーが降ろされた後、開始を告げるアナウンスが流れゆっくりと船が揺れ始める。
最初のうちは揺れ幅も小さくそんなに怖くは無かったが、徐々にその激しさを増していく。
「結構激しい……」
「それがいいんじゃない」
ちょっと顔をこわばらせていた里緒奈とは対照的に、玲緒奈はかなり楽しそうな表情を浮かべていた。
「楽しかったね、じゃあ次はコーヒーカップに行こうよ」
「2連続で絶叫系が続くのはしんどいし、そうしよう」
「私も賛成」
バイキングから降りた俺達は、玲緒奈の提案でコーヒーカップへ行く事にした。雑談しながら歩きコーヒーカップの前に到着したわけだが、待ち時間はほとんど無くすぐに係員からコーヒーカップの座席まで案内される。
「コーヒーカップに乗るのなんてマジで久しぶりだな」
「テーマパークに行ってもコーヒーカップに乗るとは限らないもんね」
「私もお姉ちゃんも久々」
しばらく待っているとコーヒーカップがゆっくりと動き出す。玲緒奈はハンドルを回し始めた。
「久々だけど、思ったよりも楽しいね」
玲緒奈は結構ノリノリでハンドルを回し続け、それと連動してコーヒーカップもくるくると回り続ける。
それに合わせて周囲の景色もどんどん移り変わっていくので、ただ座って見ているだけでもそれなりに楽しめた。
「ねえ、涼也君と里緒奈も一緒に回さない?」
「分かった」
「そうだな。座ってるだけなのも正直勿体無いし、せっかくだから俺も回そうか」
俺達は3人でコーヒーカップの中央にあるハンドルを回し始める。
「確かにただ回してるだけなのに結構楽しいな」
「ちょっと病みつきになりそう」
俺達はコーヒーカップが止まるまで3人で仲良くハンドルを回し続けた。その後コーヒーカップから降りた俺達だったが、ここで問題が発生する。
「うっ、気持ち悪い……」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「調子に乗ってハンドルを回しすぎたな」
どうやら玲緒奈はコーヒーカップの回転で酔ってしまったらしく、かなり気分が悪そうだ。
「乗り物酔いには炭酸が効果的、近くの自動販売機で買ってくるからお姉ちゃんは涼也と一緒にベンチで待ってて」
「分かった、ここで玲緒奈と待ってる」
そう言い残すと里緒奈は自動販売機を探しに行った。俺は玲緒奈をベンチに横たわらせて膝枕をする。
「今日はまだ長いんだし、あんまり無理するなよ」
「涼也君、ありがとう」
周りの目は気になったが玲緒奈の体調の方が大切だったため、俺は里緒奈が戻ってくるまで手を握りながら膝枕を続けた。
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