第29話 あっ、もしかしてどちらかが涼也の彼女じゃったりする?

 倉敷美観地区の散策を続けている気付けば夕方になっていた。夕暮れ時の景色は昼間とは少し違っている。


「今日はいっぱい散策して疲れちゃったね」


「3人で結構色々見て回ったもんな」


「楽しかった」


 玲緒奈と里緒奈は満足そうな表情をしていたため、俺としてもかなり嬉しかった。連れてきたかいがあったと言えるだろう。


「そろそろ今日の宿へ移動しようか」


「そうだね、じゃあ涼也君案内よろしく」


 俺達は倉敷駅方面へと雑談しながら歩き始める。今日は俺のおばあちゃんの家に3人で泊まる予定だ。近々倉敷に行く予定だとおばあちゃんに話したら、泊まって大丈夫だと言ってくれた。

 ちなみに同行者が2人いる事は事前に伝えてあるためその辺りは何も問題ない。それから倉敷駅に到着した俺達は電車に乗って一駅東に移動する。

 そして電車を降りてからもしばらく歩き続け、閑静な住宅街にある一軒家の前へと到着した。


「2人とも、着いたぞ」


「へー、ここが涼也君のおばあちゃんの家か」


「庭に植物が生い茂ってて綺麗」


 2人が口々に感想を漏らすのを聞きながら俺は神木という表札の下に設置されていたインターホンを押す。


「はい、神木ですが」


「あっ、おばあちゃん。俺だよ、涼也」


「涼也か、すぐ鍵を開けるけぇちいと待っとって」


 インターホンの向こう側にいるおばあちゃんはコテコテの岡山弁でそう言い残した後、すぐに玄関の扉を開けて出てくる。


「遠いところからよう来たな、元気じゃったか?」


「うん、おばあちゃんも元気そうで良かった」


「……ところで涼也の後ろにおる背の高えでーれーべっぴんはもしかして涼也の言ってた連れかのう?」


 おばあちゃんは俺の後ろにいた彼女達の存在が気になったらしい。だから俺はすぐさま説明を始める。


「そうそう、同じ高校の同級生で一緒に倉敷市立大学のオープンキャンパスに来たんだよ」


「初めまして涼也君の同級生で剣城玲緒奈って言います」


「私は剣城里緒奈です」


 2人はそれぞれ自己紹介をした。それを聞いていたおばあちゃんは感心したような表情で口を開く。


「礼儀正しいお嬢さんじゃなぁ。うちゃ涼也のおばあちゃんじゃ」


「涼也君のお婆さま、今夜はよろしくお願いします」


「こちらつまらない物ですが」


 玲緒奈と里緒奈は紙袋に入れていた菓子折りを手渡した。するとおばあちゃんはかなり嬉しそうな表情になる。


「ありがとう、ほんまにええ子じゃ。あっ、もしかしてどちらかが涼也の彼女じゃったりする?」


「り、涼也君の彼女じゃないですよ……彼女になるのはこれからだから」


「ち、違います……でも涼也の彼女には私達がなる」


 おばあちゃんからのとんでもない言葉を聞いた2人は思いっきり慌てふためいていた。後半は声が小さ過ぎて何を言っているのか聞こえなかったが、多分否定していたに違いない。


「そうかそうか、ひ孫の顔を楽しみにしとるよ」


「も、もう2人を揶揄うのはそれくらいにしてくれ」


 恥ずかしそうに顔を赤らめる玲緒奈と里緒奈の様子を見て俺は思わずそう声をあげた。だがおばあちゃんは相変わらずニヤニヤしていたため、俺の言葉はあんまり効果が無かったのだろう。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……なあ、さっきからずっと見てるけどそんなに面白いか?」


「勿論面白いよ」


「うん、私達の知らない涼也が見れるから結構楽しい」


 おばあちゃんの家で夕食とお風呂を済ませた後、玲緒奈と里緒奈はずっと俺が子供の頃の写真を見ている。

 そこには俺と澪、おばあちゃん、そして数年前に死んでしまったおじいちゃんが写っており、主に園児や小学生の頃に撮ったものだった。


「この辺の写真に写ってる涼也は変な顔ばかりしてる」


「あっ、それ私も思った。多分だけどわざとやってる感じだよね」


「……あんまり詳しい事は覚えてないけど、確か変顔で写真に写るのが小学生の時の俺のクラスで流行ってたからやってたような気がするな」


 2人が今見ているのは小学生低学年の頃に高松の栗林公園へ遊びに行った時の写真だ。写真を見て懐かしい気分になる俺だったが、それと同時にめちゃくちゃ恥ずかしい気持ちにもさせられる。


「あれ、栗林公園って事は確か……」


 俺の記憶が正しければハプニングが起きていたはずだ。そして運が悪い事にその一部始終が写真にしっかりと残っていたような気がする。

 これ以上アルバムを読み進められてしまうと俺の恥ずかしい姿を彼女達に見られてしまうかもしれない。

 だから俺は慌てて玲緒奈と里緒奈を止めようとするが、残念ながら間に合わなかった。


「あっ、涼也が顔をくしゃくしゃにして泣いてる」


「あー、食べてたソフトクリームを地面に落としたみたいだね。涼也君可哀想」


「……やばい、恥ずかしすぎて死にそう」


 黒歴史を思いっきり見られてしまった俺はその場で悶え苦しむ。顔から火が出そうであり、もう一思いに殺して欲しいと言いたくなるレベルだ。

 そんな俺の様子を見て2人は楽しそうに笑っていた。玲緒奈と里緒奈はきっと、いや絶対ドSに違いない。

 結局彼女達はおばあちゃんの家にあったアルバムを全制覇してしまった。それによって恥ずかしい過去を次々に知られてしまった事は言うまでもない。

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