第28話 赤と緑のコントラストが綺麗なところだね

 駅前のデパートで玲緒奈の新しい靴を買った後、俺達は徒歩で倉敷美観地区にやってきた。目の前には白壁の蔵屋敷やなまこ壁などが並び立つレトロモダンな景色が広がっている。


「へー、ここが倉敷美観地区なんだね」


「まるで大昔にタイムスリップしたみたい」


「ここは江戸時代から明治時代の街並みを保存してる場所だからな」


 玲緒奈と里緒奈は物珍しそうな顔でキョロキョロしながらスマホでパシャパシャと写真を撮っていた。夏休みという事もあって俺達のような市外や州外から来たであろう観光客の姿が結構目立つ。


「結構着物とか浴衣を着てる人が結構多い」


「この街並みで着てたらめちゃくちゃ映えそうだもんね」


「確かこの近くの店でレンタル出来たはずだけど、どうする?」


 彼女達の言葉を聞いた俺はそう提案してみた。すると2人は目をキラキラと輝かせながら口を開く。


「そんなの勿論着るに決まってるよ」


「私も着たい」


「よし、じゃあ早速レンタルしに行こう」


 俺達はすぐ近くにあったレンタル店へと足を運ぶ。そして店員からレンタルの説明を受けた後、着る物を選び始める。結構迷っていたようだが、結局玲緒奈は赤の、里緒奈は青の浴衣を選んだらしい。

 俺は着物や浴衣を着る気なんて無かったが、せっかくだから何か着て欲しいと2人から言われたため紺の着物を着る事にした。

 プロの店員がいたため着付けも特に問題無かった事は言うまでもないだろう。


「やっぱり2人は何着てもめちゃくちゃ似合うな」


「ありがとう、涼也君も似合ってるよ」


「着物姿の涼也は新鮮」


 浴衣姿の玲緒奈と里緒奈の姿を見て思わずそう声を漏らすと、彼女達も俺の事を褒めてきた。例えそれがお世辞だったとしても嬉しかった事はここだけの秘密だ。


「よし、じゃあ行こうか」


「うん、出発進行」


「お姉ちゃん、声が大きい」


 そんな会話をしながら俺達は散策を開始する。所々で記念写真を撮ったり、店で買い食いをしながら倉敷川沿いをゆっくりと歩く。


「……涼也君、これ本当に食べられるの?」


「青過ぎてあんまり美味しくなさそう……」


「確かに初見だとそんな反応にもなるよな」


 デニムまんという青い豚まんを買って2人に手渡したところ、微妙な反応をされたが味には問題無かったようで美味しそうに食べていた。

 他にもデニムバーガーやデニムソフトなどが売られていたが、それらも全てデニムまんと同じように青い色をしている。ちなみにここまでデニムを推している理由は倉敷が国産ジーンズ発祥の地だからのようだ。

 それから世界的に有名な名画が数多く展示されている美術館に立ち寄ったり、船で川下りをしたりして過ごした後、俺達は観光案内所の2階にある休憩所で休んでいる。


「初めて来たけど色々と見どころがあって楽しいね」


「観光地として人気なのも分かる気がする」


「だろ、俺は昔からおばあちゃんと一緒に何回も来てるけど未だに飽きないんだよ」


 玲緒奈も里緒奈もかなり満足そうな表情を浮かべているためここに連れてきたのは大正解だったと言えるだろう。


「そう言えば倉敷美観地区って結婚式ができる場所もあるんだよね、そこにも行ってみたいな」


 玲緒奈が言っているのはツタのからまる赤レンガ造りのホテルを中心にした複合観光施設の事に違いない。


「オッケー、次はそこに行こう」


「涼也君、ありがとう」


「楽しみ」


 少し休憩した後、俺達は目的地に向かって歩き始める。観光案内所からは10分もかからないくらいの距離だったためすぐに到着した。


「ここは明治時代工場だったのを再利用してる施設なんだよ」


「言われてみればちょっと面影がある」


「赤と緑のコントラストが綺麗なところだね」


 正面玄関にある赤レンガのアーチをくぐり抜けて建物の中へと入り、広い通路を通り過ぎてそのまま中庭に出る。


「さっき玲緒奈が言ってた結婚式だけど、今いる中庭広場とか向こうの方にある挙式スペースでやってたはず」


「もしこの広場でやるなら緑に囲まれた開放的な結婚式になると思うな」


 玲緒奈は自分の結婚式の様子でも想像したのか、楽しげな様子でそう話していた。そんな姿を見て胸が痛む。

 将来玲緒奈と里緒奈の隣には俺がいたいが、それは無理に違いない。ここで暗い雰囲気を出すわけにもいかないため無理矢理押し殺す。


「挙式スペースの方も気になる」


「……せっかくだしそっちの方にも行ってみようか。確か結婚式がない日は一般開放されてたはずだし」


 里緒奈の言葉を聞いた俺がそう提案するとちょっと嬉しそうな顔になった。しばらく歩き続けて挙式スペースに到着した俺達は中に入る。


「落ち着いた雰囲気があっていい、レッドカーペットと白いウェディングドレスが絵になりそう」


 先程の玲緒奈と同じように里緒奈も自分のウェディングドレス姿を想像したのか幸せそうな顔になった。

 やはり心が激しく痛んだが何とか悟られないように何とか我慢をする。2人は満足そうな表情をしていたが、その一方で俺はかなり暗い気持ちになっていた。

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ツタのからまる赤レンガ造りのホテルを中心にした複合観光施設は現実世界の倉敷アイビースクエアがモデルです、実際に作者の親戚が結婚式をしてたりもしてます〜


次回はTAKA2325様リクエストの玲緒奈と里緒奈の個別の話を投稿する予定となっています!

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