第22話 涼也君はもう私達姉妹のものだから

 倉本の一件から数日が経過し、いよいよ期末テスト本番の朝を迎えていた。多分今までのテストの中で一番緊張しているかもしれない。


「……やれる事は全部やったんだ、きっと大丈夫。俺なら絶対できる」


 直前の土日も朝から晩まで里緒奈に勉強を教えてもらったのだ。ここまで頑張ったのだからきっと努力は報われるに違いない。

 そんな事を思いながら俺はショートホームルームの時間になるまで自分の机で自習を始める。ちなみに教室の中はいつも通りの雰囲気であり、つい先日あんな事件が起きたとは思えないほどだった。

 事件の直後こそクラスメイト達は様々な反応をしていたが、数日経過した事で落ち着いてきたのだろう。


「ただ、なんか周りから避けられてる気がするんだよな……」


 あの事件以降玲緒奈とクラスで話していてもヒソヒソされる事は無くなったが、その代わり彼女以外のクラスメイト達から露骨に距離を取られるようになったのだ。

 話しかけた時は一応反応してくれるものの、どこかぎこちなく、まるで何かに怯えてるようにも見えた。


「まあ、どうせ基本的にクラスだと玲緒奈としか話さないから別に良いけどさ」


 そうつぶやきながら自習を続けているうちにショートホームルームの時間となり担任の東雲先生が教室に入ってくる。


「みんな、おはよう。皆んなも知っての通り今日は期末テストの日だ、最後まで諦めずに精一杯頑張ってくれ。じゃあ連絡だが……」


 ショートホームルームが始まると東雲先生が伝達事項を話し始めた。その後出席番号順に席を移動して、テストの開始時間が来るのを待つ。

 そしてテストの開始のチャイムを聞くと同時に俺は集中して問題を解き始める。それからあっという間に試験時間の50分が経過した。

 次のテストが始まる前に一旦トイレへ行こうとしていると玲緒奈から話しかけられる。


「涼也君、物理基礎はどうだった?」


「里緒奈から教えてもらったのと似た問題が結構出てたから、割と手応えを感じてるよ」


 物理基礎に関しては恐らく赤点を回避できるはずだ。そんな事を考えていると玲緒奈が嬉しそうな表情で口を開く。


「そっか、良かった、この調子で全教科頑張ってね」


 そう言い残すと玲緒奈はグループメンバーのもとへと戻っていった。この後は2時間目にコミュニケーション英語が3時間目に数学Bがあるため全力を尽くすつもりだ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「涼也君、テストお疲れ様」


「よく頑張った」


 期末テスト最終日の夕方、私達は以前約束していた通り涼也君と学校近くのファミレスで打ち上げをしている。

 ちなみに涼也君が問題用紙に書いた解答を私と里緒奈で自己採点したわけだが、恐らく全教科赤点は回避できそうだった。


「2人とも本当にありがとう。俺1人だと絶対今回のテストはやばかったからマジで助かった」


「涼也君の役に立てたなら良かったよ」


「涼也が嬉しいと私も嬉しい」


 私達はそんな話をして盛り上がりながら料理を食べている。この期末テストの期間はハプニングもあったが、とりあえず一件落着だ。

 まあ、そのハプニングを引き起こしたのは私達姉妹の仕業なわけだが。倉本君が涼也君に絡んだのも全部計画通りだったのだ。

 今までぼっちだった涼也君が私達姉妹と急に仲良くなれば面白くないと思うクラスメイトが現れる事くらい初めから分かりきっていた。

 だが私達はそれを分かっていながらあえて一緒に登下校したり、わざと目立つように教室で話しかけたりしていたのだ。

 その結果、倉本君が涼也君に嫌がらせをする様になった。倉本君は私達の思惑通りに動いてくれたため扱いやすかったと言える。

 指紋鑑定で時間は分からないし、髪の毛からDNA鑑定するのも難しいが、倉本君はそれを簡単に信じてしまうほど頭が弱かったら本当に助かった。

 なぜ私達がそんな事をしたのかは簡単で、涼也君を危機的な状況に追い詰めた上で救済したかったからだ。

 元々涼也君が私達姉妹に対して好意を持っている事は知っていたが、今回の一件でその感情は更に強くなったに違いない。

 そして最後の仕上げとして涼也君だけが参加していないクラスのグループチャットにとある書き込みをした。

 涼也君から話しかけられた時以外は絶対に関わるなと。それによりクラスメイト達は一斉に涼也君から距離を置いた。

 スクールカーストのトップにいる私に逆らえるクラスメイトなんてほとんどいない。それにもし逆らう奴が現れたとしても倉本君のように排除するだけだ。


「涼也君はもう私達姉妹のものだから。私達以外とは関わる必要なんてないよ」 


「……ん、今何か言ったか?」


 どうやら心の声が漏れ出てしまっていたらしい。私は適当に誤魔化しつつ、涼也君に別の話題を振る。


「ううん、何でもないよ。それより涼也君は夏休みは何する予定?」


「オープンキャンパスに参加して感想文を書けって課題があるらしいから、とりあえずそれが1つかな。後はまだ決まってない」


 涼也君の言葉を聞いてそう言えば最近のホームルームでそんな話を担任の東雲先生が話していた事を思い出す。


「ちなみにどこに行くつもり?」


「中国四国州にある倉敷市立大学ってところ。おばあちゃんの家がその近くで割と昔から馴染みがある地域だから」


 里緒奈からの質問に涼也君はそう答えた。東京からは結構距離があるため多分泊まりで行くに違いない。


「じゃあ私と里緒奈も涼也君と一緒にそこのオープンキャンパスに行こうかな」


「……えっ!?」


 私がそう言った途端、涼也君は驚いたように声をあげた。多分私達が行きたいなんて言うとは思ってなかったのだろう。


「涼也、驚き過ぎ」


「だって2人とも倉敷に縁もゆかりもなさそうなのに」


「涼也君が何と言おうともう決定事項だから、よろしくね」


 こうして涼也君と過ごす夏休みの予定が1つ決まるのだった。

———————————————————

これにて期末テスト編は終わりです〜

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次話からは夏休み編に入ります


また、@topo113様から文字付きレビューをいただきました、ありがとうございます!

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