第21話 あれ、倉本君どうしたの?

 更衣室から教室に戻る俺だったが、いきなりクラスメイトの女子数人から取り囲まれた。彼女達は顔に怒りを滲ませており、俺を軽蔑するような目で見ていた。


「八神、あんた女子更衣室を荒らすってどういうつもりよ!?」


 女子達から詰め寄られた俺は、先程倉本が言っていた言葉の意味をようやく理解する。

 あいつは俺に冤罪を着せようとしているに違いない。当然全く身に覚えの無い俺はとりあえず冷静に否定を試みる。


「それ俺じゃないと思うんだけど」


「荒らされた形跡があったから教師に相談しに行こうとしてたら倉本が教えてくれたのよ、八神が女子更衣室に入ってる姿を見たって」


 どうやら倉本はクラスメイト達に事実無根の話を吹聴したらしい。どうやって身の潔白を証明しようか考え始めていると、突然倉本が大声をあげる。


「おい、みんな。八神の机にこんなのが入ってたぞ」


 いつの間にか俺の机の前にいた倉本は黒い何かを俺の机から取り出し、こちらに向かって投げつけてきた。

 顔に当たりそうになったため咄嗟にキャッチする俺だったが、それを目の前にいた女子の1人から強引に奪われる。


「ち、ちょっと。これスカートじゃない!?」


 なんと俺の机の中には誰かのスカートが入っていた。そこで俺は倉本が保健室に付き添うふりをしてどこかへと行っていた理由に気付く。

 恐らくあいつは女子更衣室に侵入して誰かのスカートを盗み、俺の仕業に見せかけるために机の中へ入れたのだろう。


「玲緒奈のスカートが見当たらないと思ったら、あんたが盗んでたのね」


「マジか、八神最低だな」


 クラス内からは俺を非難する視線や声で出始めており、はっきり言って状況は最悪だ。そんな中、騒ぎを聞きつけたらしい生徒指導の教師が教室へとやって来る。

 すると倉本は俺が女子更衣室を荒らしてスカートを盗んだ犯人が俺だと主張し始めた。当然俺は否定するが、教師は全く信じてくれそうにない。

 倉本は外面がよく教師ウケがいい上に、多くのクラスメイト達が俺を非難する状況を見て信じてくれるはずが無かった。完全に四面楚歌の状況に陥ってしまい、万事休すかと思い始めたその時だ。


「私は涼也君が犯人じゃないと思うけどな」


「涼也は絶対そんな事しない」


 声のした方向を見ると玲緒奈と里緒奈が立っていた。2人の声を聞いてクラス内が静まり返る中、倉本がその沈黙を打ち破る。


「玲緒奈さんと里緒奈さんが信じたく無い気持ちは分かるけど、全部八神の仕業だ」


「ちなみに倉本君は何を根拠にそんな事を言ってるの?」


 玲緒奈がそう問いかけると、倉本は余裕そうな表情で口を開く。


「八神は体育の授業中に怪我して保健室に行ったんだけど、中々グラウンドに帰って来なかったんだよ。手当を受けて保健室を出てからは誰の目も無かったからその時にやったに違いない」


「確かに涼也にアリバイは無いかもしれないけど、それだけだと決定的な証拠にはならない」


 すぐさま里緒奈がそう反論すると倉本は相変わらず余裕の顔で話し始める。


「残念だけど玲緒奈さんのスカートっていう決定的な証拠がそこにあるだろ。八神の机に入ってたんだから常識的に考えてあいつが犯人でしょ」


「そこまで言うならさ、白黒はっきりさせるために指紋鑑定して貰おうよ」


 玲緒奈はそんな事を言い出した。流石にこの言葉を聞いて動揺するのでは無いかと思ったが、そうはならなかった。


「俺は全然構わないけど」


 平然とした態度でそう言い放つ倉本に対して俺は不味いと思い始める。なぜならさっきスカートを投げつけられた時に思いっきり手で触ってしまったからだ。

 だからスカートからは俺の指紋が検出されるのはほぼ違いなく、盗んだ証拠として扱われてしまう可能性があった。あそこまで自信満々なのだから倉本は証拠なんて何一つ残していないはずだ。


「指紋鑑定は触った時間まで分かる。だからこれで涼也の無実が証明される、良かったね」


 里緒奈の言葉を聞いた瞬間、倉本の表情からさっきまでの余裕が消えた。むしろ焦っているようにすら見える。


「あれ、倉本君どうしたの? ちょっとそわそわしてるように見えるけど」


「……た、確か指紋鑑定で時間までは分からなかったと思うんだけど」


 倉本は顔を若干歪めながらそう声を絞り出していた。まるで信じたく無いと言いたげな顔だ。


「それは過去の話。今の技術なら全部分かる」

 

「それと念には念を入れて女子更衣室に落ちてる髪の毛からDNA鑑定もして貰おうよ。そしたら誰が私のスカートを盗んだのかもはっきりするしさ」


 2人の言葉を聞いた倉本の顔は一瞬で真っ青になる。もはや倉本の顔に余裕なんてものはどこにも無い。

 そんなやり取りを見ていたクラスメイト達や教師もようやく誰が犯人なのかを悟ったらしく、倉本に対して非難の視線や声を送り始める。

 結局、倉本は場の空気に耐えられなくなり全てを白状した。泣いて謝っていたが当然許されるはずもなく生徒指導室へと連行される。

 女子更衣室への侵入やスカートの窃盗、俺に対する冤罪のでっち上げなどによって退学は免れないようで、この学校からは去る事になりそうだ。さらに玲緒奈が窃盗の示談に応じる気が無いため前科が付く事も確定した。

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