第18話 悪いけどこれ以上お前の相手をする気は無い

 玲緒奈と里緒奈が泊まりに来た日から2日が経過し、テスト前最後の月曜日となっていた。

 つまり来週からはいよいよテストの本番だ。赤点を取って追試や追々試を受ける事だけは絶対に避けなければならない。

 土日も里緒奈からほぼ1日中付きっ切りで勉強を教えてもらっていたため入院していた間の授業の遅れはだいぶ取り戻しつつあった。だからこの調子で頑張れば多分今回のテストに関しては何とかなりそうだ。


「里緒奈がいなかったら学校生活が終わってた可能性があったし、感謝しかないな」


「私も涼也の役に立って嬉しい」


「本当にありがとう、マジで助かった」


 俺がそう声をかけると隣でお弁当を食べていた里緒奈がちょっとだけ嬉しそうな顔で反応した。無表情と思われがちな里緒奈だが、人よりも感情表現が苦手なだけでちゃんと表情はある。

 最近では少しずつだが里緒奈の表情が分かるようになってきていた。ちなみに言うまでもなく玲緒奈は双子という事もあって完璧に見分けられるらしい。


「あっ、そうだ。テストが終わったら私と里緒奈、涼也君の3人で打ち上げしようよ」


「それはちょっと気が早すぎるんじゃないか?」


 まだテスト前だというのに浮かれた表情でそんな事を話す玲緒奈に俺はそうツッコミをいれた。すると玲緒奈は楽しげな顔で口を開く。


「だって終わった後に楽しい事が待ってたらやる気でそうじゃない?」


「……なるほど、それは一理あるな」


 確かにテスト後に打ち上げという楽しいイベントが待っているとなればモチベーションアップにつながるだろう。


「よし、じゃあ決まりだね。もうそろそろ昼休みも終わりそうだから、詳しい事は帰り道で歩きながら話そう」


「オッケー、分かった」


「私もそれで大丈夫」


 俺と里緒奈の返事を聞いた玲緒奈は満足そうに頷いた。それから俺達は座っていた段差から立ち上がって教室に戻り始める。


「俺はトイレに行ってから教室に行くわ」


「分かった、なら先に戻ってるね」


「涼也、また後で」


 本当は別にトイレなんて行きたく無かったが、玲緒奈と一緒に教室へ戻るとクラスメイト達からヒソヒソされる可能性があるため、トイレで時間調整をして戻るタイミングをずらそうとしている。


「……まあ、今日も朝から一緒に登校してた姿をめちゃくちゃ周りから見られた訳だし、もう既に無駄な抵抗感はあるけど」


 先日と同様、朝から2人が家まで俺を迎えにきたため今日も一緒に登校していた。

 彼女達と一緒に登校するとかなり目立ってしまうため今日は少し家を早く出ようとしたのだが、なぜかめちゃくちゃタイミングよく家にやってきたのだ。

 まるで何らかの方法で監視されているのでは無いかと思ってしまうくらいには完璧なタイミングだった。まあ、俺を監視するメリットなんて玲緒奈と里緒奈には無いため絶対にあり得ないだろうが。

 俺はそんな事を考えながら空いていたトイレの個室に入り、中で適当に時間をつぶしてから教室に戻った。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「おい、八神。お前どういうつもりだよ」


「……急にそんな事を言われても意味が全然分からないんだけど」


 6時間目の授業が始まる前の休憩時間にトイレへ行こうとしていた俺は教室の外で倉本から一方的に詰めよられていた。倉本は顔に怒りを滲ませており、かなり興奮している様子だ。


「俺はこの間の金曜日、玲緒奈さんと里緒奈さんに金輪際近付くなって言ったよな? それなのに何で平然と朝から2人に付き纏ってるんだよ」


 その言葉を聞いて俺はなぜ倉本から絡まれているのかを理解した。どうやら朝俺が玲緒奈と里緒奈と登校していた様子を倉本も見ていたらしい。

 だが実際に見ていたのであればどう考えても付き纏ってなんかいないと分かりそうなはずだが、倉本の目には一体どんな風に映っていたのだろうか。

 そんな事を思いつつ、とりあえず俺は冷静に答える事にする。


「付き纏ってなんかないぞ。普通に2人と一緒に登校してただけだし……」


「だからお前みたいな奴が玲緒奈さんと里緒奈さんから相手してもらえる訳ないだろ。つくならもっとマシな嘘を考えろよ」


「いやいや、全部本当の事なんだけど」


 倉本は俺の言葉には一切聞く耳持ってくれない。何を言っても反論してくるためかなり面倒くさかった。

 これ以上相手をするのもいい加減阿呆らしくなってきた俺は無視してトイレに行こうとすると、思いっきり右手の手首を掴まれる。


「待てよ、俺の話はまだ終わってないだろ」


「俺が言ってる事を信じる気がないなら何時間話しても無駄だから。悪いけどこれ以上お前の相手をする気は無い」


 俺は掴まれていた手を強引に振り解く。まさか抵抗されると思ってなかったらしい倉本は一瞬だけ怯むが、すぐに強気な表情に戻る。


「陰キャぼっちの癖に調子に乗るなんていい度胸だな、絶対後悔させてやるから覚悟しとけよ」


 倉本はそうしょぼい悪役のような捨て台詞を残すと俺の前から立ち去った。その言葉の意味を俺は教室に戻ってからすぐに思い知る事となる。

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