第9話 涼也、おやすみ
「着いた、ここが私の部屋」
「お邪魔します」
目的地である里緒奈の部屋へと到着した俺はゆっくりと中に入っていく。部屋の中は綺麗に整理整頓されており落ち着いた雰囲気が出ていた。
「あっ、涼也君。ひょっとして緊張してる?」
「生まれて初めて女子の部屋に上がったんだから仕方ないだろ」
女慣れしているリア充とは違い俺は年齢イコール彼女いない歴童貞なのだ。緊張するなという方が到底無理な話だ。そんなやり取りをしつつ、床に持っていたカバンを置いた俺は里緒奈に促されて四角いローテーブルの前に着席する。
「涼也の今のレベルを確認したいからとりあえずこれを解いてみて。2年生に入ってから習った範囲を5教科からピックアップした自作の小テストだから」
「へー、わざわざ作ってくれたのか。ありがとう」
俺は小テストを受け取りながら感謝の言葉を述べた。里緒奈は相変わらず無表情だったが、ちょっと嬉しそうに見えたのは多分気のせいではないはずだ。
それから俺は小テストの問題を解き始める。ちなみに玲緒奈も俺と一緒に勉強を教えて貰うらしく、同じ問題を隣で解いていた。しばらくして全ての問題を解き終わった俺と玲緒奈は小テストを里緒奈に手渡す。
「涼也君、手応えはどう?」
「分かってたけど全然駄目だな。ちなみに玲緒奈は?」
「私は英語以外微妙かな」
里緒奈とは違い玲緒奈はあまり勉強が得意ではないらしいが、多分俺よりは成績が良いに違いない。そんな事を考えている間に里緒奈の採点が終わったようで、小テストを返却される。
「うわっ、こうなる事は分かってたけどやっぱり酷い結果だな……」
採点結果を見ると7割近くが不正解であり、はっきり言ってボロボロだった。そして予想していた通り数学IIBと物理基礎の結果が特に酷く、正答率は1割を切る始末だ。
「私も思ったよりできてなかった」
「……いやいや、俺とは比べ物にならないくらいできてるじゃん」
玲緒奈の答案を見ると8割近く正解しており全く問題なさそうな感じだった。勉強が苦手という口ぶりだったためもっと悪い結果だと勝手に思っていたわけだが、この出来ならむしろ出来る方だろう。
「お姉ちゃんは私と比べたら勉強が苦手ってだけで、実は結構できる」
「なるほど、そういう事か」
騙された気分になっていた俺だったが、里緒奈からの補足説明を聞いてようやく納得する事ができた。
「涼也は理系科目が苦手みたいだし、今日はそれを中心にやろう」
「分かった、お手柔らかに頼む」
「私もそれで大丈夫」
俺と玲緒奈の言葉を聞いた里緒奈はカバンから数IIBと物理基礎の教科書を取り出して問題の解説を始める。めちゃくちゃ丁寧に教えてくれたためかなり分かりやすかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もう遅くなってきたし、今日はそろそろ終わりにしよう」
「……もうこんな時間か」
里緒奈の言葉を聞いてかなり長い時間が経過していた事に気付く。多分それだけ勉強に集中していたのだろう。
「やっぱり勉強すると疲れるね、喉乾いたし飲み物取ってくるよ」
そう言い残すと玲緒奈は部屋から出て行った。駆け足だった事を考えるとかなり喉が渇いていたのかもしれない。
「涼也、私の教え方はどうだった?」
「マジで分かりやすかった、このまま里緒奈に教えてもらえればどうにかなりそうな気がするよ」
「それなら良かった」
そんな事を2人で話しているうちにおぼんの上に3人分の飲み物を載せた玲緒奈が部屋に戻ってきた。
「麦茶しか無かったんだけどいいかな?」
「ああ、全然大丈夫」
そう言いながら俺は玲緒奈から麦茶を受け取る。めちゃくちゃ喉が渇いていた事もあって、コップに入っていた麦茶を一気に飲み干した。
「……あ、あれ」
喉が潤って満足感を得ていた俺だったが、なぜか急激に眠くなってきたのだ。体が異様に重く感じ始め、まともに立っていられなくなった俺はその場にゆっくりと座り込む。
「涼也、どうしたの?」
「な、なんか急にめちゃくちゃ眠くなってきて……」
「今日一日も色々あって結構長かったから疲れてるんじゃないの? ほら、涼也君ってまだ病み上がりだから体力とかも元通りじゃなさそうだし」
言われてみればそうかもしれないが、この眠気は異常だった。こうやって2人と話している間も眠気はどんどん強くなっており、徐々に意識が遠のき始めている。
「無理しちゃ体に悪いと思うし、このまま一回寝たら?」
「……で、でも……それだと……迷惑が……かかるし……」
だんだんろれつが回らなくなってきた俺は途切れ途切れになりながらそう話す。
「それは心配しなくても大丈夫。私もお姉ちゃんも絶対迷惑なんて思わないから」
「……じゃあ……お言葉に……甘えて……」
今の状態では絶対家に帰れないと判断した俺は提案を受け入れる事にした。はっきり言ってもうこれ以上眠気に耐えるのは無理だ。
「後でちゃんと起こしてあげるからそこは安心して」
「涼也、おやすみ」
そんな2人の言葉を最後に俺は完全に意識を手放した。
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