第8話 じゃあ私達がまた涼也君の初めてを貰っちゃったね
「お兄ちゃん、おかえり」
「ただいま」
家に帰ると洗濯物を畳んでいた澪から出迎えられた。どうやら俺よりも先に帰っていたようだ。澪は共働きな両親の代わりに家事全般をやっているため部活に入っていない。
「久しぶりの学校はどうだったの?」
「もう色々大変だったよ……特に授業とかさ」
「あー、やっぱりそうだよね」
俺の言葉を聞いて色々と察したらしい澪はそう話した。中学時代とは比べ物にならないくらい授業スピードが早いため、多分澪も相当苦労しているはずだ。
「今のままだと退学になりそうだから割とマジで焦ってたけど、ラッキーな事に勉強を教えてくれる人を見つけたからどうにかなりそうな可能性が出てきた」
「えっ、お兄ちゃんに勉強を教えてくれる人がいるの!?」
「いやいや、そんなに驚かなくてもいいだろ」
澪が手を止めてめちゃくちゃ驚いたような表情で声をあげた姿を見て、俺は思わずそうツッコミを入れた。
「だってお兄ちゃんって友達がいないぼっちじゃん、そんなの驚くに決まってるよ」
「俺の事を何だと思ってるんだよ……まあ、全部その通りだけど」
「それでどんな人から勉強教えて貰うの?」
澪が興味津々な表情で尋ねてきたため、俺はすぐさま答える。
「剣城姉妹の妹から教えて貰う事になった」
「……うそっ!?」
澪は予想外と言いたげな表情でフリーズしてしまった。それだけ俺の口から飛び出した言葉が衝撃的だったのだろう。
「ほら、2人が何回か面会に来てくれた事は話してただろ? その時に結構仲良くなったから今回勉強を教えて貰える事になったんだよ」
「ちょっと信じられないな……ひょっとしてお兄ちゃん騙されてない?」
「いや、多分そんな事は無いと思うけど……」
そう言われると急に心配になってきた。そんな事を考えているとポケットの中に入れていたスマホが通知音とともに振動する。スマホを取り出して画面を見ると里緒奈からLIMEのメッセージが来ていた。
「ごめん、LIMEが来たから返信する」
「基本的に家族としかLIMEのやり取りしていないお兄ちゃんにメッセージが来るなんて信じられないな……」
平然とそんな失礼な事を言う澪を無視して俺はメッセージを開く。中を見ると明日からの勉強についての内容だったが、メッセージの最後にとんでもない事が書かれていて思わず声を上げる。
「えっ、里緒奈の家でやるのか!?」
俺はてっきり学校の図書室でやるのだと勝手に思い込んでいたため凄まじい衝撃を受けた。付き合ってもいない男性を家に招き入れて大丈夫なのだろうか。ちなみに澪は完全に固まってしまっている。
「……そっか、私は今夢を見てるんだ」
「おい、戻ってこい。全部現実だから……多分」
現実逃避を始めた澪をこちらの世界に引き戻そうとするが、正直俺自身も全部夢かもしれないと心のどこかで思い始めていたため完全に否定しきれなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「涼也、いらっしゃい」
「ようこそ我が家へ」
「お、おじゃまします」
授業が終わった放課後、俺はそのまま2人の家へと直行して玄関で靴を脱いでいる。ちなみに今日も朝から通学路で
「……女子の家にあがるのは生まれて初めてだからちょっと落ち着かないな」
「へー、そうなんだ。じゃあ私達がまた涼也君の初めてを貰っちゃったね」
玲緒奈と里緒奈はちょっと嬉しそうな顔をしていたわけだが、俺の初めてがそんなに嬉しかったのだろうか。
そんな事を考えながら2人に案内されて家の中を歩いていると、奥から金髪碧眼の容姿をした背の高い女性やって来る。
「玲緒奈、里緒奈おかえり。それとあなたは確か八神君だったかしら?」
「ママ、ただいま。そうそうクラスメイトの八神涼也君だよ」
「私とお姉ちゃんの命の恩人」
それは玲緒奈と里緒奈の母親であるエレンさんだった。入院中に彼女達の父親である快斗さんと一緒に菓子折りを持って面会に来ていたため当然初対面では無い。ちなみに大部屋では無く個室に入院できたのは快斗さんとエレンさんのおかげだった。
「前会った時も話したとは思うけど私も主人も娘達を助けてくれたあなたにはめちゃくちゃ感謝してるわ。だから何か困った事があったらいつでも私達家族が力になってあげる」
にこやかな顔でそう言い残すとエレンさんは家の奥の方へと戻っていく。そんな様子を黙ってみていると玲緒奈が話しかけてくる。
「私達のママ、めちゃくちゃ美人だったでしょ」
「ああ、相変わらずびっくりするくらい美人だった」
俺は正直な感想を話した。母親があれだけ美人なのだから娘である玲緒奈と里緒奈が学校でも噂になるくらい美人な事に納得だ。
「分かってるとは思うけど、ママに手を出そうとしちゃダメだよ。もしそうなったら絶対怒り狂ったパパに殺されるから」
「いやいや、そんな事するわけないだろ」
年齢イコール彼女いない歴童貞の俺が手なんて出せる筈が無い。そもそも人妻に手を出すような趣味なんて俺にはこれっぽっちも無いのだ。だから揶揄うような表情をしていた玲緒奈に対してそう答えた。
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