第7話 だから私に任せて

「授業の内容が全く分からないし、これは結構ガチでヤバいな……」


 放課後になった現在、俺は誰もいない教室で1人頭を抱えていた。1ヶ月以上休んでいたため当然授業はかなり進んでおり、そのせいで内容が全く分からなかったのだ。

 特に数学IIBや物理基礎などの理系科目が深刻であり、今のままでは間違い無く赤点を取ってしまう未来が待っている。

 ちなみにうちの高校はテストで赤点を取れば追試を受ける必要があり、追試でも一定の基準をした回った場合は追々試を受ける事になるのだが、その追々試でも一定の基準を下回ってしまった場合は退学となってしまう。

 そして中間テストが終わってすぐのタイミングで例の事件に巻き込まれたため、期末テストまでもうあまり日がない。

 こんな時、リア充なら頼りになる友達や恋人、先輩から助けて貰って退学というピンチを乗り越える場面なのだろうが、残念ながら俺はぼっちだ。


「いや、割とマジでどうしよう。退学になるとか本当洒落にならないからな……」


 せっかく元気になって戻ってきたというのに退学になるなんてあまりにも悲し過ぎるだろう。もしこれが物語なら、それは誰も得をしない展開だと言わざるを得ない。

 ルールの厳しい進学校に入学する事を決めた過去の自分を恨み始めるわけだが、今更そんな事をしても時間の無駄遣いでしかなかった。正直かなり面倒だが教師に頼み込んで教えてもらうくらいしか道は無さそうだ。


「涼也。難しそうな顔してどうしたの?」


「うわっ!?」


 完全に自分の世界に入っていた俺だったが突然話しかけられた事に驚き、思わずそう声をあげてしまった。


「……そんなに驚かれたらちょっと傷つく」


「あっ、里緒奈が悲しんでる。いーけないんだいけないんだ」


 いつの間にか俺の目の前に立っていた玲緒奈と里緒奈からはやし立てられた俺はとりあえず謝る事にする。


「ごめん、まさか急に話しかけられるとは思ってなかったからつい……てか、2人ともまだ帰ってなかったんだ」


 帰りのホームルームが終わってから既に30分近くが経過していたため、まだ学校に残っていた事が意外だった。

 俺の場合は朝の続きとして東雲先生に呼び出されていたから帰るのが遅くなったわけだが、2人はなぜ帰っていないのだろうか。そんな俺の疑問に彼女達が答える。


「涼也君と一緒に帰ろうと思って」


「それで待ってた」


 なんと玲緒奈と里緒奈は俺と一緒に帰ろうとしているらしい。今日は朝から2人と一緒に登校したり、昼に手作りのお弁当を貰ったりするなど人生初のイベントのバーゲンセール状態だったわけだが、まだ終わらないようだ。


「どうせ断っても嫌だって言うんだろ?」


「勿論」


「よく分かってるじゃん」


 2人がめちゃくちゃ強引である事は身をもって経験していたため、何を言っても無駄である事は最初から分かりきっていた。

 それから俺達は教室を出て靴箱で上履きから靴に履き替えると、ゆっくりと歩いて帰り始める。朝と同様周りからの視線が相変わらず凄まじかっため俺は全く落ち着かない。


「そう言えばさ、結局涼也君は何を悩んでたの? まあ、何となく予想はつくんだけど」


「……正直めちゃくちゃ情けない事なんだけど、実は授業の内容が全然分からなくて」


 俺は玲緒奈と里緒奈に対して今の悩みを正直を話した。話すのはかなり恥ずかしかったが2人にはだいぶ気を許しているため思い切って打ち明ける事にしたのだ。


「やっぱりそうだよね。でもあれだけ休んでたんだから仕方ないと思うな」


 どうやら玲緒奈にとっては予想通りだったらしく、そう慰めの言葉をかけてきた。それによって多少救われたような気分になったものの、根本的な問題については何も解決していない。


「今のままだと退学になる可能性があるから何とかしないといけないとは思ってるんだけど、良い方法を何も思いつかなくてさ」


「なら私が涼也に勉強を教えてあげる」


「えっ!?」


 それまで黙っていた里緒奈の口から飛び出した突然の提案に俺は驚く。自分のテスト勉強もあるというのに果たして俺に教える余裕なんてあるのだろうか。そんな事を思っていると玲緒奈が得意げな顔で話し始める。


「里緒奈は学年でもトップクラスの成績だから何も心配はいらないよ。私も英語以外はあまりできないからよく教えて貰ってるし」


 俺は里緒奈に対して頭が良いインテリキャラなイメージを勝手に持っていたが、どうやらそれは間違っていなかったらしい。


「だから私に任せて」


「……本当に良いのか?」


 俺が改めてそう尋ねると里緒奈は黙って首を縦に振った。その様子を横から見ていた玲緒奈が嬉しそうな顔で口を開く。


「よし、決まりだね。テスト本番までもうあんまり時間が無いし、早速明日から始めよう」


「分かった。それでよろしく頼む」


「涼也、よろしく」


 これで何とか退学という危機的な状況を何とかできる可能性が出てきた。だが言うまでもなく俺が頑張らなければ何の意味も無いため、決して油断はできない。このチャンスを必ず活かしてみせると心に決めた。

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