第6話 私もここでお昼ごはん食べる事にしたから

「……やっと昼休みか」


 ようやく午前中の授業が終わり昼休みの時間になっていた。久々の授業だったせいかめちゃくちゃ疲れてしまったため、昼休みが待ち遠しかった事は言うまでも無い。

 当然ぼっちのため一緒にご飯を食べるような相手なんていない。だから昼休みの時間は教室の外で過ごすようにしている。教室でぼっち飯をするなんて惨めすぎて絶対に嫌だった。

 俺は朝コンビニで買ったパンとジュースを持って席から立ち上り、中庭へと向かう。中庭で昼食をとってから図書館でラノベを読んで時間を潰すというのがいつもの流れと言える。


「やっぱ落ち着くな」


 ここは景色が綺麗な割に人があまりいない穴場的なスポットであり、俺が1年生の時に見つけたベストプレイスと言える場所だ。

 段差に腰掛けた俺がパンの袋を開けようとしていると、誰かの足音がゆっくりとこちらに近付いてくる。顔を上げるとそこには手に弁当箱と箸の入った袋を持った里緒奈が立っていた。


「涼也、こんなところで何やってるの?」


「誰かと思ったら里緒奈か、見ての通り昼飯だよ」


 なぜこんなところに里緒奈がいるのか疑問に思う俺だったが、偶然通りかかっただけかもしれない。俺の言葉を聞いて満足して立ち去るのかと思いきや、里緒奈は隣に腰掛けてきた。


「……えっと、里緒奈さんは何してるのかな?」


「私もここでお昼ごはん食べる事にしたから」


「いやいや、里緒奈は一緒に食べる相手くらいクラスにたくさんいるだろ」


 カーストトップの里緒奈が俺なんかと昼食をともにするメリットなんて全く無いはずだ。むしろ俺という最底辺の人間と一緒にいる姿を見られたらマイナスまである。


「もう決めた、それともうすぐお姉ちゃんも来る」


「えっ、玲緒奈も来るのか!?」


 里緒奈はスマホを操作しながらそんな事を口にした。確か玲緒奈はいつもグループのメンバー達と食べていたはずなので、それを抜けて来ても大丈夫なのだろうか。そんな事を思っていると弁当袋を持った玲緒奈がやって来る。


「2人ともお待たせ。じゃあ早速食べようか」


「……マジでここで食べる気?」


「うん、勿論だよ」


 俺の言葉を聞いた玲緒奈はニコニコとした笑顔でそう答えた。何を言っても無駄な事を悟った俺は説得を諦める。

 まあ、ここなら人通りが少ないため見られる心配もあまり無いし、多分大丈夫だろう。俺が気を取り直してパンの袋を開けようとしていると、玲緒奈から止められる。


「あっ、涼也君の分のお弁当も作ってきてるからそのパンは食べなくてもいいよ」


「えっ!?」


「私とお姉ちゃんで一生懸命作った」


 俺はてっきり偶然ここを通りかかった里緒奈が完全なる思いつきで玲緒奈を呼び出して一緒に昼食を取るという流れになったのだと思っていた。

 だがそれなら俺の分のお弁当が用意されているのは明らかにおかしい。最初から俺と一緒に昼休みを過ごす気だったとしか思えないのだ。

 そもそも俺がベストプレイスで昼食を取っている事は誰にも話した事が無かったはずなのに、なぜこの場所が分かったのだろうか。どれだけ考えても答えは出そうに無く、むしろ謎が深まるばかりだった。


「そんなに驚くくらい嬉しかったのかな? まあとにかく食べてみてよ」


「……ありがとう」


 気になる事は色々とあったが、俺はひとまず玲緒奈から弁当箱を受け取る。そして蓋を開ける俺だったが、中身はハンバーグと卵焼き、唐揚げ、ブロッコリー、白米というシンプルなものになっていた。とりあえず俺は卵焼きを一口食べる。


「えっ、めっちゃ美味しい」


「でしょ、私達の自信作なんだから」


「お姉ちゃんと一緒に頑張った」


 見た目に関してはなんの変哲もない卵焼きだったが、なんと味はびっくりするくらい美味しかったのだ。ちなみに玲緒奈と里緒奈のお弁当箱にも同じおかずが入っていた。それから俺は次々と他のおかずにも箸を伸ばしていく。


「うん、やっぱり美味しい……ただハンバーグのケチャップだけはちょっと変わった味がする気がする」


「ああ、ケチャップには追加で隠し味を入れてるからね。もしかしたら口に合わなかったのかも」


「そこはごめんなさい」


 まるで鉄のような味がしたため俺が思わずそう感想を漏らすと、玲緒奈はすぐに理由を教えてくれた。

 ちなみに隠し味として何を入れたのかについては頑なに教えてくれなかったが、愛が関係しているとだけは教えられ、余計に気になってしまった事は言うまでも無い。

 しばらく3人で雑談しているうちにあっという間に完食する。俺は箸と弁当箱を洗って返すつもりだったので一旦預かろうとするが、なぜか2人からは拒否をされてしまったのだ。


「箸と弁当箱は私と里緒奈が責任を持ってちゃんと洗うから涼也君はわざわざ気を使わなくもいいよ」


「作って貰った上に洗い物までさせるってめちゃくちゃ申し訳ないんだけど」


「いい、私達がやるから」


 結局2人から押し切られてしまったため俺は何も対価を支払う事なく、ただでお弁当を食べたという結果だけが残った。

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