期末テスト編

第4話 涼也は私達だけの物だよ

 ようやく病院を退院できた俺は久しぶりに学校へと登校している。長い間休んでしまっていたため正直言って色々な事が不安だ。

 そう思いながら通学路を歩いていると、近くのカフェから見覚えのある2人組が出てくる。手には飲み物の入ったプラスチックカップを持っていたため、多分通学前に寄り道していたのだろう。


「あっ、涼也君だ。おはよう」


「涼也、おはよう」


 俺の存在に気付いたらしい玲緒奈と里緒奈は、それぞれ挨拶してきた。2人は入院中にたびたび面会に来てくれていたため今では結構親しい仲になっている。

 だから2人からは下の名前で呼ばれるようになっているし、逆に俺も2人の事を玲緒奈、里緒奈と呼ぶようになっていた。

 本音を言えば女子を下の名前、それも呼び捨てで呼ぶ事にはかなりの抵抗があったが、2人からキラキラした目で頼まれてしまったせいで断れなかったのだ。


「2人ともおはよう、朝から通学路で遭遇するなんてめちゃくちゃ珍しいな」


 基本的にいつもギリギリで学校に到着している俺と、余裕を持って登校している玲緒奈と里緒奈では、この道を通る時間帯が違う。だから今まで朝の通学路で2人に遭遇した事はほとんど無かったのだ。


「……そうね」

 

 里緒奈が一瞬黙り込んだ姿を見て何か違和感を感じた俺だったが、その正体については分かりそうにない。そんな事を考えていると玲緒奈が話しかけてくる。


「そう言えば涼也君は今日から学校に復帰だったっけ、退院おめでとう」


「ありがとう。長期間休んでたせいでこれから色々と大変そうだからマジで憂鬱な気分になってる」


「確かに涼也君が休んでた間に授業もだいぶ進んじゃってるもんね」


 立ち止まってそんな会話を始める俺達だったが、担任から職員室に呼び出されていた事を思い出す。あまり長話をし過ぎてしまうと間に合わなくなってしまう可能性があるため、ちょっと名残惜しいがそろそろ切り上げなければならない。


「……1時間目の前に担任から呼び出されてるし、そろそろ行くわ」


 俺は玲緒奈と里緒奈にそう言い残して別れようとする。本当はこのまま一緒に学校へ行きたいところではあるが、スクールカーストトップの2人と最下層の俺が一緒に登校するのは色々まずいのだ。


「そっか、じゃあ急がないとね」


「早く行こう」


 どうやら玲緒奈と里緒奈は俺と一緒に登校する気満々らしい。あれだけでは流石に言葉足らずだったと反省した俺は改めて口を開く。


「一緒に登校すると誰かから誤解されるかもしれないだろ、だから学校には別々に行こう」


「別に誤解されても大丈夫だよ」


「私達は全然気にしない」


 玲緒奈と里緒奈は口々にそう話した。結局2対1には勝てるはずもなく、そのまま押し切られてしまった事は言うまでもないだろう。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 お姉ちゃんと私は涼也と一緒に学校に向かって歩いている。涼也は誤解されるからと言っていたが、誤解されても一向に構わなかった。

 だって私は涼也の事を本気で愛しているのだから。命を助けて貰ったあの日、完全に惚れてしまった私は涼也の事が欲しくてたまらなくなってしまっている。

 それはお姉ちゃんも同じだったらしい。だから絶対に私達だけの物にしようとお姉ちゃんと2人で決めた。

 双子の私達だが意外にも好みなどは結構分かれている。好きな食べ物や好きな服、好きな色などはそれぞれ違っているのだ。

 だが昔から本当に欲しいと思ったものは同じになる事が多く、しかもそういうものに限って物理的に分けられないようなものばかりだった。

 それでも大きな問題は無かったと言える。だって分けられないものについては2人だけの物にした後でシェアしてきたのだから。

 そしてそれは涼也についても同じだ。今までと同じように私達だけの物にした後で、ゆっくりとシェアする。


「涼也は私達だけの物だよ」


「ん、今何か言ったか?」


「……何でも無い」


 つい心の声が漏れ出てしまった私はそう言って誤魔化した。それから3人で歩いているうちに学校へと近づいてきたわけだが、隣を歩く涼也がそわそわし始めた事に気付く。

 多分、周りから見られて落ち着かないのだろう。世間一般的にお姉ちゃんと私はかなり美人らしいので、よくこうやって視線を集めてしまう。

 昔からそうなので私達はもう既に慣れているが、涼也は多分そんな経験が今まで無かったに違いない。そんな事を思いながら歩いているうちに学校の靴箱へと到着した。


「じゃあ私はこっちだから」


「俺は職員室に呼び出されてるから、とりあえず行ってくる」


「涼也君、また後で」


 私はお姉ちゃんと涼也と別れると教室に向かい始める。涼也と同じクラスのお姉ちゃんが正直無茶苦茶羨ましかったが、こればかりはどうしようもない。


「あっ、里緒奈。おはよう」


「おはよう」


 教室に着くと仲の良いクラスメイトから挨拶された。返事をしながら席に着こうとしていると、何かに気付いたらしく話しかけくる。


「今日はいつもより嬉しそうに見える気がするけど何か良い事でもあった?」


 涼也が今日から学校に来る事が嬉しかった私だったが、どうやら表情に出てしまっていたらしい。


「秘密」


 興味津々なクラスメイトに対して私は短くそう答えた。

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