第3話 私とお姉ちゃんが初めてなんだ
剣城姉妹を庇ってナイフで刺された俺が病院のベッドの上で目覚めたのは、あの日から数日が経過してからだった。
どうやら俺はかなり危険な状態だったようで、緊急手術をしても助かるかどうかは正直五分五分だったらしい。後でその話を聞いた時は本当にぞっとした事は言うまでもないだろう。
「助かって本当に良かった……まあ、無差別殺人事件に巻き込まれた時点で運は全然良くないけど」
現在は緊急手術が終わってから既に1週間ほどが経過しており、集中治療室を出て一般病棟の個室に移っていた。
集中治療室では家族以外の面会が禁止されていたが、一般病棟ではその制限は無い。だが俺にはそんな事全く関係なかった。
「だって俺、友達がいないぼっちだからな……」
そう、残念な事に俺には面会に来てくれるような友達が誰一人としていないのだ。だから基本的に面会に来るのは家族の父さんと母さん、1歳年下の妹である
そんな事を考えながらベッドの上で家族から差し入れてもらったライトノベルを読んでいると、突然扉をコンコンとノックされる。
「……ん、俺の病室に誰か来たのか?」
今の時間帯が4時過ぎという事を考えると、仕事中の父さんや母さんはまずあり得ない。と言う事は消去法的に学校終わりの澪が面会に来てくれたのではないだろうか。
「入っていいぞ」
俺がそう答えると病室の扉が開かれるわけだが、中に入ってきた人物を見て驚く。なんと面会に来たのは澪では無く剣城姉妹だったのだ。
「突然2人で押しかけちゃってごめんね。どうしても私と里緒奈から八神君に直接お礼が言いたくてさ」
「君のおかげで助かったよ。あの時は助けてくれて本当にありがとう」
2人から感謝の言葉をストレートに伝えられて照れてしまった俺は、顔を緩ませながら話し始める。
「わざわざ来てくれてありがとう、2人が無事で良かった」
「八神君の方こそ元気そうで安心したよ、ずっと心配してたんだから」
「私もお姉ちゃんも気が気じゃなかった」
どうやら俺は剣城姉妹からめちゃくちゃ心配されていたらしい。まあ、自分達を庇ってくれた人が万が一死んでしまうような事になればあまりにも後味が悪すぎるため心配するのも当然か。
「まだすぐには退院できないけど回復はしてるし、特に障害が残るような事も無いらしいからそこは心配しないでくれ」
「そっか、それなら大丈夫そうだね」
「私達のせいで君が苦しむのは嫌だったから」
俺の言葉を聞いた2人は明らかに安心したような顔になった。やはり俺の容態についてはかなり気になっていたようだ。
それから俺達は3人で雑談を始める。剣城姉妹とは今まであまり話した事が無かったため緊張もあったが、それ以上にめちゃくちゃ楽しかった。
だから面会の制限時間である30分が過ぎるのは本当にあっという間だったと言える。今までの人生の中でもトップクラスに時間が早く感じた。
剣城姉妹と別れるのが正直名残惜しいと感じ始めていると、妹の方がこちらに手を伸ばしながら口を開く。
「ねえ、ちょっとだけスマホ貸して?」
「……別に良いけど何に使うんだ?」
「君のスマホに私とお姉ちゃんの連絡先を登録したい」
なんと女子と連絡先を交換するというビッグイベントが発生しようとしているらしい。画面のロックを解除してスマホを手渡すと、慣れた手付きでスマホを操作し始める。
「はい、電話番号とLIMEの友達登録をしたから」
返却されたスマホを見ると確かに電話帳アプリとチャットアプリであるLIMEの友達に剣城玲緒奈と剣城里緒奈が登録されていた。
「ありがとう、女子と連絡先を交換するのはこれが初めてだからちょっと軽く感激してる」
「私とお姉ちゃんが初めてなんだ」
そう話す彼女は相変わらず無表情だったが、どこか嬉しそうに見えた気がした。
「じゃあ私達はそろそろ帰るね。八神君が元気に学校に来れるようになるのを楽しみに待ってるよ」
「またね」
そう言い終わると2人はゆっくりと病室から出て行く。俺はそんな2人を見送りながら内心でかなりハイテンションになっていた。
「女子と連絡先を交換できるなんてまるで夢みたいだ」
今まで俺のスマホの中に女性の連絡先は母さんと澪しか無かったが、剣城姉妹という超絶美少女2人が新たに追加されたのだ。嬉しく無いはずがない。
あまりにも嬉し過ぎて本当に夢ではないかと疑ったほどだが、頬をつねったところちゃんと痛かったため夢という可能性は無いはずだ。
そんなバカな事をやった後、俺は再びライトノベルを読み始める。そしてしばらくしてからとある事に気づいて驚く。
「……あれ、スマホの充電がもうこんなに減ってるんだけど」
90%以上あったはずの充電が気付けば50%まで減っていたのだ。さっき連絡先を交換して以降一度もスマホを触ってないはずなのになぜここまで大幅に減っているのだろうか。
「まあ、使い始めてから結構長いしバッテリーが劣化してきてるのかも」
色々考えた結果、俺はそう結論付けた。この時の俺は自分の個人情報が全て筒抜けになる遠隔監視アプリをスマホにインストールされてしまった事に全く気づいてなかった。
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