1‐11 お買い物
「つ、ツムグ……今良い?」
ダッシュが彼に声をかける。文房具と白紙の書類を持っていて、おそらく昨夜の記録を纏めたいみたい。記録部長のラポトにも協力してほしいけど、ダッシュ一人じゃまぁ難しい。
「おう。いいぞ。」
「……」
「?どうした。」
なお、ツムグは今ベッドの上で亀甲縛りをされている。もちろんやったのはウチ。
「スペル~、後にしましょうね~」
「え、後も
テインもダッシュも解いてほしいみたいだし、仕方ないから拘束を解いた。
「報告ならウチもいく~」
「あ、うっ、うん……お願い……」
植物魔獣のことなら、ウチも力になれそう。ていうかツムグにくっついてたい。
二人は『
(いらなそうな荷物は置いていこ~)
ウチも『
と、やっていたらなんか二人が凄く見ている。
「何~?」
「あぁ、いやその……スペルって『
「あれ?言ってなかった~?魔法術だから使えるよ~。」
一方で、クロルたちはどうしようかと話している。昨夜の報告関連のことは、ツムグ(MC)、ダッシュ(頭脳)、ウチ(専門)がいればどうにかなるからおそらく別行動になる。1~2時間もあれば終わるだろう。
「じゃあ買い物でもいく~?」
「あっ!いいですね!食べ物も買いたいですし。」
ウチらの食事は宿で済ませている。でも確かに何か買って食べたいし、せっかくなら苗や種、肥料も欲しい。ここは農村だから良いものが買えると思う。後で時間があったら、ツムグとデートでもしよう。
「ツムグ~お金頂戴~!」
「はいよ。とりあえず2,000ラプテあれば平気か?」
財布からお札を2枚取り出し、クロルに手渡す。クロルはそれをポケットに入れると、ベッドの方にいたハセラの方を見る。
「脳筋、お前も来い。」
「えっ、別に留守番しててもいいんだけど……」
「剣1本しかねーでしょ。何かしら買っとけ。」
ハセラは週に1~2回くらいのペースで剣を折る。そろそろ真面目に業物の1つでも買えばいいのに。それか修復の魔術が組み込まれた魔剣とかさ。
部屋の鍵は2つあって、1つはツムグ、もう1つはテインが持っている。クロルは物の管理が少し杜撰だし、ウチは持つの面倒臭いし、ハセラは失くしそうだし、ダッシュは持ってる荷物が多い上にそもそも民間の鍵くらいなら多分ピッキングできる。
1階に降りると、ハチとラポトがいた。ハチは仕事が一段落したらしく、ちょうど息抜きに出かけるつもりだったそうだ。
「案内しましょうか?」
「あ!お願いします!」
☆☆☆☆☆☆
「いや~、実は昨日から執事と巫女さんが一緒にいる満身創痍のパーティーがいるっていう話で村中がもちきりだったんですよ~」
執事……はツムグで、巫女はテインだな。せっかくの遠征なんだから、現地の服装も着てみたい。ノーミンの首都で流行りの服とかはさすがにないみたいだけど、新しい服を見るのは中々楽しい。
「服屋の次は武器屋かな?それとも食べ物かな?」
「お前はまず服見ろよ。」
ツムグはまだ普段お洒落に気を使っているけど、正直アタシ以外の4人はまあまあヤバい。
ぼっちは着数自体はそれなりだけど、バリエーションがない。大体おんなじような奴を5着くらい持ってる。たまにツムグの服着てるけど、さすがに小さいからいやいやアタシの服貸してる。
スペルは持ってる服が薄着を2,3着だけで、たまにツムグの服着て彼シャツとかいってる。ゆったりした感じがちょうどいいらしい。
テインは初めて会ってから、巫女服かパジャマ以外あんま見たことない。たまに緩いシャツ着てるけど。てか、テインもたまにツムグの服着てる。
ダッシュはまったく同じ服が2着と、正装1着だけ。たまに着る服がないとき、一回脱いだ服着ようとして止められてた。で、ツムグの服着せられてた。
(いや本当にツムグの服多いな。どこから仕入れてるんだろう。)
まぁアタシらの中じゃ、ダントツでプライベートとか副業が多いし仕方ないんだけど。
「服かぁ……別になんでもいいんだけど……」
「全員の2着くらい買っときたいから、適当に自分の選べ!明日か明後日また見るんだからせめて1着な!」
「えぇ~……」
とりあえず1枚の服をとった。白い長袖の上着と、緑のスカートみたいなズボンがセットになっていて、腹の部分には帯がある。若干だけど、シルエットは巫女服に近い感じだ。伝統舞踊の影響を強く受けている、〝フォラズイェア〟という服らしい。
ほかにも革のベストや、デニムのオーバーオールなど農作業の影響を受けた服も
あるみたい。もちろん普通のカジュアルな服もあるけど、せっかくだから特徴的な方を買いたい。
「……あれ?これって、和服ですか?」
テインが1着の服を取った。1着というより、1セットかな?ワフクという服らしく、フォラズイェアに近い。というか、巫女服と大体一緒だ。
「ワフク?という言い方かはわかりませんが、それは渡来人によって伝えられたですね。風通しがよく動きやすいので、農業人が着る服としても、見回りの歩哨たちが着る服としてもいいですよ。寝巻や普段着にもいいですね。」
「そうですか……これ数着ほしいですね。」
巫女服とそんな変わらないから、着やすいんだろうか?
「それ気に入ったの?」
「あっ、はい。というより、ハセラに来てほしいですね。」
「え?僕?」
さっきも言ったが、こいつの服は大体一緒だ。だからこういう服を着せるのは良いだろう。まぁいやっつっても殴ってでも着せよう。
「歩哨も着れるみたいだし、ちょうどいいだろ。身軽そうだし。」
「うぅん……まぁせっかくなら……」
といい、その服を1セット手に取った。
「買うので試着してもいいですか?」
「はい、構いませんよ。」
金額は……特別高いってわけでもないみたいだな。
試着室へ向かうハセラ。その間に、アタシも1着服を選ぶ。とりあえずフォラズイェアだな。
(どうせなら赤がいいな。赤は紅葉柄か……季節違うけど、秋服として早めに買っておこうかな……)
数分待っていたら、ぼっちが試着を終えた。
「どう……?」
カーテンをあけ、凛と佇むぼっち。
紺色の袈裟、グレーのワイドパンツ、そして靴は草履。腰には剣を携えていて、いや外せよと思った。腰の剣をひじ掛けのようにして左腕を置き、少し恥ずかしいのか右手は頭に添えている。
「似合ってますよ!」
「はい!」
「そ、そう、かな……?」
はにかんでいる表情で目をそらす。
まぁ確かに悪くないだろう。普段来ている服と相まって、なんだかこう……
「似合ってんのがむかつく。」
「ほめてるそれ?」
「いや、そんなに。」
「おっけー。表出ようか。」
「まずは会計してください。」
この脳筋は新しい服をもう汚す気か。怖いから3着くらい買った方がいいんじゃないかな。
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