1-10 不可解
「カァ……カァ……!!」
「クェア!クェア!」
空中に飛び、ゴーストクロー達の前に浮遊する。流石に飛んでくるとは思っていなかったのか、こちらを見るゴーストクロー達が鳴いて威嚇する。
『そうだクロル、聖属性の光魔法もあるので使ってみてください。』
「うん!」
彼女は前方に掌を向け、光の魔法陣を展開した。『スパーク』と唱えると、腕くらいの太さの光線が放たれた。その光はゴーストクロー1体の半身を穿ち、貫いた。
「魔法術ってこんな感じか~」
『ちなみに、細い光線の方が消費する魔力が少ないです。ある程度の練習が必要だと思いますが、クロルの狙撃力があればそっちの方が――』
「『スパーク』!『スパーク』!『スパーク』!」
先程よりも細い『スパーク』をポンポンうち始める。その光は、ゴーストクロー達の心臓を寸分違わず撃ち抜いた。
「慣れると便利だね!光速は矢の速さと全然違うからもうちょっと慣れたいけど…」
(誰が戦いの中で
撃たれたゴーストクロー達はそのまま降下していく。
幽霊の場合でも心臓が弱点になる。心臓が血液循環のように、全身に魔力を巡らせるからだ。
一方、地面の方ではソダートさんがスカルタニップと戦っている。付与が施された棍棒を握り、地面を這うカブたちを砕いていく。カブたちは跳ねたり蔓を伸ばしたりして抗うが、容易く討伐される。
『ツムグ、3時の地面にもカブがいる……』
「スボル、左側にカブが潜んでる。」
「え、あ、うっす!」
ダッシュ付近の守備も大丈夫なようだ。
そしてさらに、かかしの方も動き始める。ゆっくりと左右に揺れ、急にぴょんと跳ねる。畑の中をとん、とん、とんと進んで迫ってくる。
「スペル、頼めるかな。」
「ん~……〝あそこまで伸びろ〟~」
地面から根っこが現れ、かかしの隣まで伸びる。スペルの魔力が込められ、その状態で固定される。
その根っこを橋のように使い、かかしの元へと駆けるハセラ。
鞘に納められた刀を構え、浅く息を吸う。
「〝一刀流〟…〝
すれ違いざまに斬り、かかしはそのまま崩れた。
周囲に注意を向けていたが、ゴーストクロー達の気配が変わったので目線を向ける。
「グゥルェェァァッ!!」
「うるっさっ!」
ゴーストクロー達の一部は、魔術化した鳴き声――『
「『スパーク』!まだまだいるね……」
一撃で敵を仕留めたハセラと、難なくゴーストクロー達を倒すクロル。二人に同様の疑念が浮かぶ。
(…妙に呆気ないな……?)
(効き目がないってわかってると思うけど…なんかずっと向かってくる……?)
そしてそれは警護団員達のなかの数人にも、そのような疑念が生まれていた。スカルタニップ達は、まるで倒されるように向かってくる。
(攻撃してくるから好意的な向かい方ではない……明らかに敵意を感じる。でも、特にゴーストクローは知性の高い魔獣……無駄に攻めたりはしないはず……)
私やダッシュは自身の考察や疑問をツムグに送っている。彼は、それらの情報を処理しつつ戦況を常に把握している。
『ハセラ、そこから周囲を見渡してくれ。畑や奥の方でなにか異変や違和感があったら戻って教えてくれ。』
ハセラは刀を構え直し、伸びた根のところから周囲を警戒する。
「ツムグ~、そろそろ応戦する~?」
「おう。」
「魔獣化植物〝スカルタニップ〟~……」
『
「よしじゃ~あ~他のも……」
彼女はスカルタニップ達に指示を出そうとしたが、なにやら様子がおかしい。
一体のスカルタニップが唸る。
「ガ……ガ……ガブァッ!!」
「ぅあっ……」
スカルタニップが勢い良く弾けた。
「え、そんな惨い倒し方できんの?」
「ん~…違~う…ウチじゃな~い…」
スペルの支配で弾けた訳じゃないみたいだ。では、自爆だろうか?
『コイツらに自爆の魔術ってあるのか?』
『固有の魔術はない……けど自爆自体はレアじゃない。とくに環境に適応する植物魔獣は……』
もしかして他のスカルタニップも自爆するのだろうか。もし顔の近くで弾けられたら、それなりの怪我になると思われる。
「スペル、代わろう。今の俺の場所から、全体の補助を頼みたい。」
ツムグが歩いてスペルの方へ向かう。右の手のひらがスペルに向くよう、自身の横くらいに掲げる。
「いいよ~」
すれ違いの際に、二人はパンッとハイタッチする。
スカルタニップが数体、彼らの元に向かう。
彼は
「〝『オーバー・ワーク』〟」
「とぉ!」
放たれた飛ぶ打撃はスカルタニップに衝突し、そのまま砕く。
「もっぱつ…!!」
※もう一発
今度は体当たりをしてくるスカルタニップに対して
「『オーバーワーク』!」
直接魔術を纏った拳をぶつける。打撃の威力が伝導し、そのまま奥にいた他のスカルタニップにもダメージが届く。難なく砕かれていくスカルタニップ達。
「なーんか手応えねぇな……あっ、そうだ」
ゴーストクローが2体ほど集まり、彼の方へ向かう。
彼は手を上に掲げる。光の魔法陣、おそらく結界術であろうものを構築しながら詠唱する。
「
そうして投げ放たれた魔法陣は、回転しながら進み、ゴーストクローを2体ほど倒した。
ちょっと待て。
『ちょっと今なんて?』
「『
そしてしばらくすると、魔獣達の動きが変わり始めた。
『ツムグ、ゴーストクローが畑のほうに向かってるっぽい。逃げるならともかく、攻撃してくるかもしれない。』
『おう。』
彼はダッシュからの『テレパス』をハセラに伝える。
「グァ!グァ!」
「向かってくるなら……」
ハセラの方向目掛けてゴーストクロー達が向かっていく。
「〝一刀流〟……」
刀を構え、迎撃準備をするも…
「っ……いや、僕じゃない?」
ゴーストクローたちは先程倒された“お化けかかし”の残骸を咥え持ち去る。
「なんだ…?」
一方や他の魔獣達も同じ様な行動を取る。
(倒された蕪を食べてる?クロル達が最初に倒したカラス達もいない……成仏が済んだ?いや、あの速度だとまだ残っててもいいのに……)
(って、顔してるな……)
ツムグはおそらく、状況とダッシュの表情からその思考を読み取ったらしい。
『ハセラ、戻ってきてくれ。』
樹木の根の橋を駆け、ツムグたちのもとへ戻るハセラ。
「なにか異常や気がかりはあったか?」
「そうだね……カラス達が先程倒したかかしの残骸を回収していたよ。」
「そうか。」
『ツムグ!ちょっといい?』
クロルが彼にテレパスを送った。
『どうした?』
『カラス達がみんな逃げてくんだけど……追い討ちした方がいいかな?』
『いや、今はいい。』
『おっけー!』
歩哨の人たちも、討伐すべきかと問いかけたが、彼は調査のためにもまだ残しておこうと答えた。
一方でダッシュは疑問を浮かべた表情で、周囲を見渡している。
(どこにも魔獣の反応がない……全員逃げたから?いやでも、亡骸の反応も一切ない……?)
討伐され時間が経過したもの、風化したものには魔獣の反応がなくなる。だが、短時間の場合は細胞が生きており、また、魔力や魂を宿しているため多少の反応があるはずだ。だが、今ダッシュの魔術にはそれらの反応が一切ない。
『クロル、一度これ解きますね?』
「あ、うん!」
〝キューピット・モード〟を解除し、二人に戻る。
「モンスター達が皆退散しましたね…」
「ビビっちゃったのかな?」
魔物や魔獣の気配が一切しない。灯りで照らしても、姿形がない。
呆気にとられていると、歩哨の人たちは私たちに
「今晩のクエストは一度終わ我々は通常通り警護を続けます。異常等ありましたらお伝えしますので。」
と持ちかけた。
「あぁ、頼む。」
彼が答え、私たちは一足先に宿に向かった。道中周囲を見渡したが、やはり魔物や魔獣は見当たらない。
こうして少し不穏な気配のまま、今宵のクエストは終了した。
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