1-5 〝酒造りの村〟ヴァテンダ
【〝酒造りの村〟ヴァテンダ】
ノーミンの南部に位置する村。山々に囲まれた場所を集落に、その外側の土地を畑にしている。温厚で穏やかな海洋性既気候をしていて、冬は比較的穏やかだが、夏は暑く乾燥している。
トマトやキュウリ、イチゴやリンゴなど様々な農作物を栽培していて、市場やレストランで広く利用されている。
その中でも特に注力しているのはブドウの栽培だ。ノーミンの名産品である高品質ワイン、〝小さなバイオリン〟の生産に大きく貢献している。
「“ヴァテンダの農業生産には気候だけではなく土壌も適した条件であり、ノーミンの土壌は約80%が腐植土のためきわめて肥沃である。”……ここはお酒造りで有名なんですね。」
「〝小さなバイオリン〟は、確か白ワインだったかな。さっきクロルが買った赤ワインも、ここのじゃないかな?」
この村の案内書を片手に、ハセラと話しながら歩いていく。仲間に肩を貸しているので、歩くペースはゆっくりしている。
ツムグから封筒を受け取り、そこに入っていた地図を基に目的地まで向かう。
「テインはお酒は飲むのかな?」
「飲まないですね。巫女ですが、まだ17ですし……」
(そもそもこの世界では私も彼も、ほんとは0歳児なんですよね……)
歩き進めていくと、村民達にもすれ違う。見ない顔だからか、自身達とは違う服装だからかはわからないが、視線を向ける人が多い気がする。
しばらくして、目的地である村役所に到着した。
一階建てで、石レンガと木材を中心に作られていて、とても広いわけではないものの、パンフレットを見るとこの村では少ない大きな建造物の一つだそうだ。窓ガラスや壁には渦巻いく弦のような意匠があり、周囲には花壇や路樹なども備えられていて、どこか自然を感じる。
中に入り、受付の人たちに(ツムグが)事情を説明する。しばらくお待ちくださいと言われ、壁際のソファーに移動した。
「『
ツムグと2人で、3人に呪術を掛け、飲み物を渡す。顔色も大分良くなってきたみたいだ。
数分待つと役員の片が戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらの方へどうぞ。」
と、奥の部屋に案内された。クロルとスペルはそれなりに良くなったみたいで、自分で歩いた。ただ、身体が弱いダッシュは未だにツムグに肩を借りている。
(透明マント着けてないってこと忘れてないかな……)
中に入ると、二人の男性がいた。
一人は一番奥にある卓席に座る、茶色いベストのような服を着た村長らしきご老人。
もう一人は、部屋の真ん中にあるテーブル席に座る若い男性。青いジーンズと、白い長袖シャツの上から、ご老人と同じ茶色の服を身に付けている。
「よくぞいらしてくれました、冒険者の皆さま。ご足労感謝いたします」
若い男性が立ち上がり、私たちに軽い会釈と挨拶をする。
「私はノーチと申します。あちらが私の父、タンボ村長です。」
「冒険者をしているワガミ・ツムグともうします。」
ツムグが挨拶を返し、私たちもお辞儀する。彼は村長の方にもお辞儀をしたが、目線を向けられただけだった。
「あぁすみません、現在多忙なものでして……えぇの、本日は調査依頼でお越しいただいたということでよろしかったですか?」
「はい。」
「すみませんが、〝
ノーチさんは私たちを見渡す。ダッシュを名指しで聞くのは、今回の依頼は調査であり、彼女の知識が重要になるだろう。
彼は「こちらです。」と言って、自身の後ろにもたれ掛かっているダッシュを示す。続けてクロルを紹介しようとしたが、ノーチさんはダッシュの方に釘付けになる。
「あなたがあの〝
ダッシュは酔いで死にそうな顔をしていて、それどころではないみたいだ。
ガチャ
ダッシュが息を整えるのを待っていたら、扉が開き一人の女性が入ってくる。私たちを見ると、状況を察したみたいだ。
「おっと、失礼しました。」
「いえ……」
「あっ、私 宿屋を営んでいるハチと申します。」
茶髪に若々しい肌、ほどよく引き締まった体つきと、明るく聞き取りやすい声色。白いシャツに青いデニムのズボン、少し大きなエプロンという服装は、実用服なのかおしゃれ服なのかは定かではないが、レヴェルではなかなか見ないので、新鮮な感じだ。
「あぁハチ。丁度良かった、案内してもらっていいか。俺は親父といろいろ進めとくから……」
「え、あぁ、うん。」
また、村長は何も言わずにいる。書類を書いているようだが、ずっとペンが止まっている。少し気まずいので、私も早く出たい。
「はぁ……はぁ……あぁヤバイ、出る……」
それよりもダッシュの方が出たがっていた。というか出しそうだ。
服を掴まれながらそんなことを言われたツムグは、すごい表情で『
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