1‐6 魔術について 前編


 自分が死にかけている間に、話がなんか結構進んでいた。

 ツムグがハチさんっていう女の人と話しながら歩いているので、自分は今はハセラに肩を借りながら歩き、宿の方に向かっている。


「あぁ、そういえば……」


 『収納インベントリ』から封筒を取り出し、招待状を見せる。


「これ村長に渡した方がよかったんですかね……」

「え?あ、招待状ですか?すみません、宿についたら確認いたしますね……」


 招待状。特にクエストの依頼ではこの書類が重要になる。身元証明の役割を担っているからだ。行きの駅で追加の切符を買ったが、今回のようにその交通費を依頼側が負担する場合などにも使われる。印が刻まれているので、魔道具を使えば照合を簡単だ。

 この魔道具は数年前にで、近接系ブルーの魔術を模倣した魔道具を無線・有線を使い、遠距離にあるほかの端末と通信を行える。本体の端末には主に支援系イエローの魔術を模倣した機能が組み込まれている。


「こちらが、皆様に泊まっていただく宿です。」


 役所から五分ほど歩き、目的地である宿に着いた。役所と同じ感じの造りで、これもまた弦の意匠が施されている。階層は3階建てだ。パンフレットを見ると、駅や周囲の商店などともアクセスがしやすいようで、村に来た客に対する利便性がみられる。

 階段をのぼり、3階に着く。一番奥の部屋に案内され、鍵を(ツムグが)受け取る。


「部屋は一番大きな間を用意しました、私は連絡用の書類を進めないといけないので一度失礼します。依頼の件は後で詳しく説明しますが、部屋の追加など何かあったら呼んでください!」

「はい、ありがとうございます。」


 ハチさんはツムグから招待状や切符の領収書を受け取って、この場を離れていった。

 部屋の中は9帖くらいの広さで、シャワーとトイレが別々にある。菓子折りや本があったり、湯沸かしの魔道具(自分が遠隔系レッドを基に作った奴)や中サイズの冷蔵の魔道具(自分が近接系ブルーを基に作った奴)なども備え付けられていたりする。

 『収納インベントリ』は自分以外の生物を収納できないし、温冷ねつなどのエネルギーを保存し続けられないので、こういう魔道具はとても便利だ。

 壁の方にベッドは3つあり、枕の方にはそれぞれテーブルもある。荷物はベッドの下に仕舞えるようだし、6人でも狭くはないだろう。

 自分は手奥のベッドに倒れ、ふかふかの布団に身を委ねる。横になれるとやはり楽だ。ツムグが荷物を置いたら、彼に覆い被さるようにスペルがベッドに倒れた。やはり、彼女もかなり疲れていたようだ。


「あ、ツムグ~!部屋一緒にしよ~」

「ウチもツムグと一緒~」

「あぁ、ちょっと待って。」


 彼はスペルにまたがれたまま起き上がり、布団に沈む自分の方を見る。


「スペルとダッシュ、ちょっといいか?」


 まずい、何かしてしまったのだろうか。説教か、説教だろうか。さっき村長の前でも死んでいたからだろうか、それとも背中で吐きそうとか言ってしまったからだろうか。もしくは現在真っ先にベッドに倒れてしまったからだろうか。


「魔術の相談があんだけど。」


 あぁ、よかった。思い当たる節がまだまだいくつかあったが、そういうわけではないようだ。


「そんなに時間かからないし、酔いがきついなら後でも構わないんだけど。」

「ウチはいいよ~」


 スペルは起き上がった彼の膝の上に跨り、向き合うような姿勢のまま答える。


「じ、自分も……」


 彼に先ほど呪術を施されたので、だいぶ落ち着いてきた。それに彼と会話すれば気持ちも楽になるはずだ。

 真ん中のベッドに集まり、クロル達三人も一緒に聞く。


「テインはともかくぼっちはわかんの?」

「ぼっち言うな。」

「役所に着いてから口開かなかった奴が何言ってんの。陰キャめ。」

「電車酔いで死んでたのは誰かな?」


 二人の言い合いで、自分への流れ弾が凄い。


「これ見てほしんだけど。」


 彼は魂札ライセンスを見せる。候補の欄には、新たな魔術が記載されていた。

 だが、それはとても珍しいものだった。


「邪なる秘術?」


 魔王軍幹部アウモスが襲来したあの日、ツムグは魂札ライセンスわそうとした。しかし、魔王に阻まれた失敗した。

 魂札ライセンスの通信構造は、『テレパス』などに近く、通信を阻むものがない状態だったり、一方がコミュ力Sなどであったりすれば、完全に接触しなくとも通信が出来る。彼はコミュ力の化身だ。おそらくあの時、ギリギリだが受信したのだろう。

 魂札ライセンスには、不正送受信などを防ぐエンチャント――『アクセス制限』、『漏洩防止』、『アクセス履歴』、『プロテクト』、『ワクチンプログラム』などが施されている。


(そのはずなのに、ツムグはすれ違っただけで受信するからなぁ……)


 履歴が残るので、相手側からしたらまぁ恐怖だろう。そういうこともあって、纞伝来帯あのベルトには魂札ライセンスの通信を妨害する機能を施しておいた。


 読み込み中に接触を中止したので全てではないものの、彼はアウモスの魔術、その一部を継承していた。


【アウモスから継承した魔術一覧(既に持っていたものを除く)】

・邪なる秘術

堕悪系ダーク固腐敗ゴオルド』:一定範囲に本人以外に『腐敗オルド』と同様の効果が作用する中級呪術

堕悪系ダーク腐敗オルド

生物を腐敗させる低級呪術

堕悪系ダーク痛裂グリフ

斬撃箇所から痛みと損傷が広がる中級呪術

堕悪系ダーク『摂取』

血の摂取や食事で通常以上に栄養する常時発動の低級呪術

堕悪系ダーク暴走化バーサーカー

アドレナリンを分泌し、筋力、体力、牙、爪の強化及び痛覚の低下を起こす中級呪術

・身魂魔術

支援系イエロー幽叩イットノック

ゴーストなどの存在に接触できる中級技術

支援系イエロー『霊感』

魂を強く認識できる低級技術

・物理魔術

近接系ブルー斬雷鳴ザラメ

雷撃を武器に引き寄せる中級共鳴術

支援系イエロー屍泥駒デッドロック

周囲の土砂を使い、傀儡を構築する中級共鳴術


☆☆☆☆☆☆


次回は設定説明が多いです。

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