1-4 ちょっと酔っちゃったかも


 昼食を食べ終え、一時間くらい経ったかな。途中、数駅ほど停車したので乗客が増えたり減ったりしたけど、今はどちらかというと少ない方。

 現在、クロルはツムグと一緒にファンション誌を読んでいる。テインはハセラの肩に頭を置いて昼寝をしていて、ダッシュは水を片手に新聞を読んでいる。

 初めて乗ったので、ウチはずっとそとの方を見ていた。少し前までは住宅や販売所などがそれなりにあったが、今いる辺りはこの線路くらいしか建造物がない。ところどころに井戸や民家はあるものの、ほとんどが自然の景観。少し離れたところにある大きな川が、ずっと着いてきている。


 数分後、車内の天井に取り付けられた装置からアナウンスが聞こえる。


「まもなく、バンペ駅です。ノーミン方面へは、お乗り換えとなります。」


 〝音〟の魔術が組み込まれた魔具か、魔道具か……それとも蓄音機というやつか。それはさておき、放送それを聞いたツムグがハセラに話しかける。


「乗り換えか。ハセラ、テイン起こして貰えるか。」

「うん。」


 彼女はテインを軽く揺さぶり、目を覚まさせる。ん~といいながら、伸びをするテイン。

 ウチはダッシュの方を見て「乗り換え」とやらはなんなのか聞いてみる。


「えっと、の、ノーミンの方にいくために、別の列車に乗るの……路線とか、立地的にこの車両でそのままノーミン方面には走れないから……」


 援護系パープルの〝空間〟魔術でも使って、転移すれば早いと思うんだけどな。

 荷物を纏め、出る準備をする。

 停車した駅に降りる。それなりの人が待っていて、多分このあとの車内が埋まりそうだ。ダッシュとクロルは慣れているのか、乗り換えの車両の方に迷うことなく歩いてく。ウチらも二人に着いていき、車両に乗り込む。

 今回の車内は、材質とかはさっきのと大体一緒だけど、窓側に沿って座席が一繋ぎに並んでいる。向かい合う形だ。人はあまりいないので、すんなり座れた。


「本線は、人工湖前駅、スイフ港駅へ停車したのち、ヴァテンダ駅まで途中停車致しませんので、ご注意ください。」


 長く走るのだろう。先ほどから、なんだか頭がいたいというか、クラクラするというか、気分が悪い。


「……大丈夫か?」

「なんか気持ち悪い……」

「やっぱり酔ったか……。」


 酔った?馬車酔いとかの類いだろうか。


「ずっと窓側にいたから、黒煙も多少吸ったんじゃないの?」

「うぅ……皆は平気なの~?」

「アタシは平気だよー!」


 クロルに続けて、皆も平気だという。ただ、ダッシュは「電車もだけど若干人酔いもしてきた……」と言っている。


「着くまでテインの隣に座っとけ。」

「う~……」

「あ、ダッシュも隣座りますか?」

「うん……」


 ハセラ、クロル、ツムグ、ウチ、テイン、ダッシュの順に並んで座る。

 列車は数分すると、ゆっくりと動き始めた。ツムグに外の風を浴びると多少楽になると言われ、窓を開ける。確かに少しはマシだ。空の方を見ると、先ほどと違い黒煙ではなく白煙が上っている。


「お前あんま酔わないの?」

「そうだね。よく乗るわけではないけれど、乗り物は酔うことはほとんどないかな。」

「ふ~ん。まぁ馬鹿は風邪引かないとか言うしね。」

「よーし、窓全開にするね。すまないけどテイン、このメンヘラを魂結びの術かけてもらっていいかな。」

「オイコラ何する気だ。てかスペルとダッシュに障るから静かにしろ。」


 ツムグが注意すると、二人はごめんと謝り喧嘩じゃれあいを止めた。クロルはファッション誌を開き、ハセラは目を閉じ瞑想を始めた。


☆☆☆☆☆☆


 スイフ港駅で停まったあと、列車は30分ほど走り続けた。その間、スペルとダッシュは頭痛や不快感が徐々に悪化していったものの、テインのおかげもあってどうにか保っていた。

 が、僕のとなりに座るはというと……


「キモっっっっち悪い……」


 今にも死にそうだ。顔は青ざめ、げっそりとしている。


「ずっと雑誌読んでるから……」

「うっせぇぶっかけんぞ…」

「汚い汚い。汚いよ……」


 外の景観は、国境を越えた辺りからほとんどずっと田畑が広がっていた。奥の方を見ると、植林農園などもある。


「もうちょいかぁ………」

「うぅ~……」

「ん……」

「三人とも大丈夫ですか?」


 テインが魘されている三人を心配する。自身の両隣に対して『爽快リフレッシュ』を施し、そろそろですよと宥める。


「前は雑誌読んでても平気だったんだけどなぁ……しばらく乗ってなかったからかなぁ……」

「俺も久しぶりだから、少し頭痛いな。」

 

 ツムグもクロルに対しテイン同様の処置をして、そのあと自身にも施す。


「そろそろ着くから辛抱しようか。」

「こっちは脳筋のお前と違って脳みそが精密なんだよォ……石油やるから黙っとけ……」

「……あっ、ホントに買ってたんだ。」


 先ほど言われたのはただの冗談だと思っていたが、石油が入った瓶をこちらに向けられた。


(って、誰が脳筋だ。)


 そう思ったが、これ以上続けると体調に障るだろうから流石に飲み込んだ。


「あ、見えてきましたよ!」


 少し低めな山がある。その奥に栄える、家々が連なり人々が生活を営む場所が見えてきた。

 そして丁度、アナウンスが聞こえる。


「まもなく、ヴァテンダ。まもなく、ヴァテンダ。お降りの際は、足元にご注意ください。」 


 集落の中央に走る線路の上を、列車が進んでいく。村の中を進んでいくと、村の景観を見ることができた。自然豊かな地域で、家々や施設はレヴェルとは違った印象を覚える。やがて列車は、村の反対側……最東端あたりにある駅に停車した。


 僕とテインは特に問題ないから、酔っている四人の荷物もいくつか持つ。ただ、ツムグは「マシな方だから」と言って自分で持った。

 列車が徐々に減速し、ヴァテンダ駅にて停車する。クロルはツムグに、スペルはテインに、ダッシュは僕に肩を借りて下車した。


 改札を通り、外に出る。

 レヴェルとは違う風景。石造りの家屋と、カラフルな建物が並んでいる。街路樹…路樹?が並んでおり、小さなカフェや商店がいくつかある。けれど、特別賑わいでいるというような感じではなく、静かで長閑な雰囲気だ。

 早速依頼主のところへ行こうかと思ったが……


「あー、しんど……」

「もう乗らない~……」

「て、テイン、ちょーだい……」

「え!あ、はい!」


 三人が限界だったようだ。テインとツムグが呪術を施し三人を宥める。

 

 が、最終的に三人は紙袋を使ので、依頼主のところへ向かう前に休憩をいれることにした。

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